117 / 168
第六章
馬には乗ってみよ人には添うてみよ03
しおりを挟む朝、偽ゲーベルドンの姿はなかった。
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
生贄を渡す役割の本物のゲーベルドンが死に、その事をさっそく、仲間である紫の海賊に伝えにでも行ったのか。
看守らの姿に、特別いつもとは違った行動は見られない。僕を見る目も、いつも通りだ。
僕は、いつも通り、カインハッタ牢獄内の回廊を歩き、異変がないかどうかを、見回った。
囚人部屋001の二重人格者であるアタフ、リョウバを小窓から覗き、前と変わらずおかしな言葉を使うアタフがいる。
こういう状態になれば、もう以前の様に何かの情報を訊き出す事はできないだろう、そう思った。
そして、僕は何も気にせず、再び歩き出したんだ。
次に囚人部屋の小窓を覗いたのが、0053だった。
貴族階級で罪名不明で、常に瞑想していた中年男。でも、その瞑想しないるはずの男の目が開き、こちらを見ている。
僕は、彼の目に違和感を感じ、声をかけてみた。
そうしたら、もうじきに、私はこの場所を去る事になるだろう、そう言ったんだ。脱走宣言、そんなものが許されると思っているのか、と。
悪しき魔石をよく破壊したな、そう言っていた。
この男の目は、罪人の様な目ではなく、とても澄んだ目をしている。
彼は、僕に一言告げたら、再び瞑想に入り、口を開く事はなかった。
何を考えているのか、よくはわからなかったけど、目を離すべきではないだろう。何故、魔物化したゲーベルドンの心臓部の宝石破壊を知っているのかも、気になる。
でも、この男の言葉を訊いた後、僕は急いでアタフの元へ向かったんだ。
額に何か描かれ、消した様な跡があったアタフ。それ以降、意味のわからない事ばかり言う様になった。
アタフがまた何かを語る。
もう一度、語り出す言葉をよく訊く。
お母様から昔、各地方に出向いた時に、持ち帰り、僕に与えた本。
その1冊に、忌まわしい島として記されていた、ケツァル島の特殊言語だ。
ただ一度だけ、お母様が本に記されていた文章を一部、読んでくれた事があって、そこから幼少時、僕なりに解読した事があった。
だけど、遥か遠くの記憶だ、はっきりとその言葉の意味が思い出せなかったんだ。
次に、僕が思い出したのは、囚人部屋に記されていたあの象形文字だった。
ベリオストロフ・グリーンディの部屋。
あれも、ケツァル島の特殊言語だ。
間違いなく、このカインハッタ牢獄内にケツァル島の者がいる。
誰に何かを伝えようとしている。
誰にだ。
各囚人部屋から出て、他の囚人と交流する機会はない。だとしたら、看守か、囚人アタフの仲間か。
アタフは盗賊団ガリンシャにいた、その仲間か家族か。でも、ここに来て、アタフは誰一人面会に来た者はいないはずだ。
囚人部屋で唯一、出入りができる囚人は、ベリオストロフ・グリーンディ。
彼にアタフのケツァル島の特殊言語を伝えるには、あまりにも回りくどい。
看守に伝えようとしているのか。
まさか、
僕が、ベリオストロフ・グリーンディのいない時に、彼の囚人部屋に入って、壁の象形文字を見入っていたその姿を見た者が、
僕を試そうとしているのか。
ジスマリアの25日
カインハッタ牢獄内にて
_________________________
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。
夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。
キャラクター
シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm
ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目
ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm
頭…中年 盗賊団のトップ 188cm
ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる
ひよこ麺
BL
30歳の誕生日を深夜のオフィスで迎えた生粋の社畜サラリーマン、立花志鶴(たちばな しづる)。家庭の都合で誰かに助けを求めることが苦手な志鶴がひとり涙を流していた時、誰かの呼び声と共にパソコンが光り輝き、奇妙な世界に召喚されてしまう。
その世界は人類よりも高度な種族である竜人とそれに従うもの達が支配する世界でその世界で一番偉い竜帝陛下のラムセス様に『可愛い子ちゃん』と呼ばれて溺愛されることになった志鶴。
いままでの人生では想像もできないほどに甘やかされて溺愛される志鶴。
しかし、『異世界からきた人間が元の世界に戻れない』という事実ならくる責任感で可愛がられてるだけと思い竜帝陛下に心を開かないと誓うが……。
「余の大切な可愛い子ちゃん、ずっと大切にしたい」
「……その感情は恋愛ではなく、ペットに対してのものですよね」
溺愛系スパダリ竜帝陛下×傷だらけ猫系社畜リーマンのふたりの愛の行方は……??
ついでに志鶴の居ない世界でもいままでにない変化が??
第11回BL小説大賞に応募させて頂きます。今回も何卒宜しくお願いいたします。
※いつも通り竜帝陛下には変態みがありますのでご注意ください。また「※」付きの回は性的な要素を含みます

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる