魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり15 end

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 イェンはすっと動き出し、マールと悪魔の子達の背を押した。

「さぁさぁ君たち今日はもう遅い泊まって行きな、大丈夫こんな争い犬も喰わないから」

 悪魔の子達はブーブー言いながら、マールに宥められ渋々その場をあとにする。その様子を見届けて魔王はエルディアブロを見た。

「そうかお前、今回のか。すまぬな我が娘がハクイの事をママと呼んでしまったが故にこんな事にすまない」
「人聞きが悪いですね。なんですかその犠牲者とは」
「おいそこのヘタレ魔王、可哀想な眼でこっちを見るなヤメろ」
「いやお前充分可哀想だよ」

 流石の青年も哀れむ。すると何かが音たて盛大に切れたのを聞いた気がした。

「もう許さん。ほんっとに許さん。こうなったらあの人間の赤ん坊の息の根を止めてやる」
「な!」

 リーベは関係ないだろと青年が叫んだ時にはエルディアブロは城の一室へと向かって飛んでいた。


「やめなさい」


 魔王が動くより先にハクイの声がピシャリと辺りに響く。

「く、くそ!」

 飛行していた筈のエルディアブロはその動きを止め、ハクイはその側へと近付いた。

「どうですか、思惑通りにいかないご気分は?」
「き、貴様。早くこの術を解け」

 エルディアブロの身体は本人の意志に反してハクイの元へと移動する。

「八つ当たりするなら頭にきた本人にしなさい」
「貴様に言われたくない」
「なんの事です?」
「貴様が俺の所にくる時は必ず何かしらの鬱憤を晴らす為だろう」

 するとハクイはほんの一瞬瞳を見開いて「あぁなるほど」と呟くとクスクスと笑う。

「何がなるほどだ」
「いや」

 そのまま抱き上げるとハクイは歩き出す。エルディアブロは焦って何処に行く何を笑うと問うたが、ハクイはただ「そう思っていたかと思うとおかしくて」と微笑するだけだ。

 二人の様子を青年と共に唖然と眺めていた魔王だが、思い出してその背に声を投げかける。

「あーハクイ、余計なお世話だろうが今朝の誤解だけはといてやれ、いくらなんでも可哀想だぞ」

 ハクイはそれに応えるようにヒラヒラと手だけを振ってみせた。

「おい、とりあえず術を解け」
「そうしたらお前は逃げてしまう」
「貴様から逃げ切れるもんか」
「わかっているじゃないか」
「だったら」
「解きません」
「ならばせめて抱き方を変えろ」

 一瞬何故と問おうとして、先の青年と同じ抱き方をしている事に気付く。

「……あぁ。なるほどそうでしたか」
「だから何がおかしい!」

 そうして二人は去って行った。
 あとに残されたのは青年と魔王の二人だけ。

「な、なんだったんだ……」

 答えを求めるように魔王を見上げれば、魔王は肩を竦める。聞けばあの悪魔が幼い頃からハクイは面倒をみているそうだが、いつしかあのような切っても切れない間柄になったらしい。

「え、ハクイ様。自分が面倒見た子に手を出したんですか? えー……リーベ大丈夫かな」
「いや待て大丈夫だ。あれのために言うがハクイはそもそも子供に興味はない。誓ってそんな変態趣味はないぞ」
「いやでもほら」

 青年は二人が消えて行った方向に指を差し、汚いものでも触ったような眼で魔王を見上げる。

「私もよく分からんのだがな。少なくともあの悪魔のハクイへの好意は今に始まった事では無い。昔からどうも過剰でかなり手を焼いたのだ……今もだが、ちなみに私は何故か嫌われている」

 それを聞いてハクイに抱き上げられた時何故睨まれたのかようやく理由が分かった。ようは只の嫉妬だ。

「えーと……つまり俺達は、只の痴話喧嘩に巻き込まれただけ?」
「まぁそうだな」

 同時に深いため息を零す。

「つまらない事で人の命を持ち出さないでくれよ~」
「全くだ。心臓が止まるかと思ったぞ。あれも誤解を煽るような事を言わねばいいものを」
「聞いてたぶんにはただただハクイ様が最低だったんですが」
「いやあれはあぁ見えて過保護だぞ。ご丁寧に術まで施して、お陰でイェンが手を出せなかった。令嬢に関してはその時私も側にいたからな。別に何処かへ連れ込んだりもしていないさ。その後は用があって互いに城を空けたのだが」
「どっかでコッソリ見て勘違いしたって事か」
「悪魔は眼がいいからな。遠くから見たせいで勘違いしたんだろう」
「とんだ眼の良さですね」

 二人顔を見合わせ苦笑する。

「そう言えば俺長い時間外にいるけど意外と平気」
「馬鹿を言え、私がここに来た時直ぐにお前に結界をかけた。眼にした時は肝が冷えたぞ」
「わぁさすが魔王さまちょっと見直した」
「どう言う意味だ」
「ところで気のせいかさっきから誰か泣いてません?」
「あぁ言われてみればまるで赤ん坊のような」

 ハッと二人は顔を見合わせ

「リーベ!!」

 地面を蹴って走り出す。

 だが魔王が途中で青年の肩を抱き、次の瞬間には赤ん坊用の小さな寝台の前にいた。驚きつつもリーベを抱き上げて、顔を見せれば嬉しそうに微笑み、安心したのかすやすやと眠りにつく。それを見て青年までも眠気に誘われそのまま寝台に横たわった。
 魔王はまだ戻るつもりはないらしく寝台の横の椅子に腰掛けている。

「それにしてもなんか意外だった」

 青年が欠伸をしながら言うと魔王は「何がだ?」と静かに返す。

「てっきり魔王さまとハクイ様がデキてるもんだと」
「は、はぁ?」

 魔王は妙に大袈裟な反応をする。

「いやだって、なんかツーカーの仲と言うかたまに熟年夫婦のようなやりとりするし、あ、隠さなくても大丈夫ですよ。俺にとってはそっち方面も珍しい話じゃないんで」
「じゅくね!? ふ、ふうふ……? そ、そんな覚えはないが。ま、まぁ確かにあれとはこの城の中で一番付き合いが長いし、だがそんな関係性では、いないと困ると言えば困るが、いなければ生きていけないと言う程では」
「あぁうんわかる。俺にもいるし」

 何故か言い訳がましく話す魔王の話に適当に返事をすると今頃しかめっ面で頭を悩ませているであろう藍色の瞳をもつ男を思い出すのだった。



 ―― 第五章 水魚の交わり。 end ――


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