魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
113 / 168
第五章

水魚の交わり14

しおりを挟む


(おいおい、なんでそこで俺を睨むかなー)

 獣のように呻って此方を刺すように睨んでいるが不思議と妙な体勢のまま身動き一つとらない。

(いや、とれないのか?)

 その姿は必死に身体を動かそうとしているようにも見えた。

「全くどうして直ぐにわたくしを呼ばないのですか」

 地にいる魔王の所へと降下しながらハクイは淡々と問う。

「いやお前は気付いていて来ないのだとばかり」
「魔王さまわたくしが今朝から野暮用で城を空けていたのをお忘れで?」
「まさか知ってはいたさ、知ってはいたんだが」
「まぁいいでしょう」

 ふわりと地へ降り立ち、ハクイは魔王の側に青年をおろした。

「だ、大丈夫か少年?」
「魔王さま、少年じゃなくてロワだってば。いやてかなんで直ぐに動かなかったんですか」
「いや今動こうとだな」

 言い訳を始めた魔王へ青年が冷たい視線を送っていると、脚元から子供が唸る声がした。

「うぅ~ハクイ様のバカ~」
「み、耳が、死ぬかとおもっただろ!」

 先程の耳鳴りのような音が余程堪えたらしく、両耳を押さえて地に伏している。

「自業自得でしょう。そもそもどうしてこんな夜更けに起きているんですか、さっさと寝なさい」

 ハクイの言葉に子供達は口々に「だってエル様が」と泣きべそをかきながら言う。彼がどうしたのかと問うと朝方様子がおかしく、その後から姿を見ないので心配で探していたのだと。

「なるほどそうでしたか」

 ハクイは妙に納得した顔で頷いた。

「まぁそれはそれとして、エルディアブロここにいるみなに謝りなさい」

 まだ一人夜空にいる悪魔に言う。

「ほざけ誰が貴様なんぞの言う事など、もとはと言えば全て貴様のせいだ」

 もう動けるようになったのか此方へ力強く指を差し叫ぶ。しかしハクイはなんの事やらととぼけるのでエルディアブロはぶるぶると身を震わせた。

「貴様この場で言わせる気か? そこにガキ共もいるんだぞ?」
「何を言ってるんですか、わたくしは周りへ迷惑をかけたことを謝りなさいと言っているんです」

 だがエルディアブロは全く納得出来ないらしい。低く唸ったかと思うと静かに声を張り上げていった。

「……よおく分かった。ならば貴様がした事から先に謝って貰うぞ。良く聞けそこのウスノロ共!」

 誰の事かと青年は魔王とイェンと顔を見合わせまさか俺達の事かと気付く。

「そいつは昨晩いつもの如く」

(いつもの如く?)

「夜這いに来たかと思ったら」

(夜這い来たかと思ったら!?)

「人を好き勝手弄び朝にはすっかり姿を消しやがった、そこまではまだいつもの事だ別に今更何も言わん」

(いやいやいいのか!?)

 三人で内心ツッコミをいれるがエルディアブロにとってこの次が重要だった。

「だがそのあと貴様は何事もなかったかのように女を引っ掛けていただろう! 人を弄ぶのも大概にしやがれこの外道!!」

「あーえーと、ハクイ様とコイツってそんな関係? そんな関係なのねぇ?」

 青年は思わず魔王とイェンを問いただす。すると気不味そうに顔をそむける面々。
 わかっていないのは子供達だけだ。

「何を怒っているのかと思ったら、あの令嬢はわたくしを美しいと言ったので、美しいだけではない事を教えてさしあげただけですよ」

 しれっと言ってのけるハクイ。堪らず青年は口を挟む。

「ちょっと待ったハクイ様ストップ。ハクイ様が最低って事は分かったからとりあえず一旦ストップ」

 だがそんな言葉は二人には届かない。

「貴様は誰でもいいのか! この下衆が!」


 その様を遠い目をして眺めていた魔王とイェンは気付いた。


((つまりこれは、ただの痴話喧嘩))



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...