魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり13

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「知った事か。そもそも何故この俺が貴様らに合わせ引き下がらねばならない」

 すると、魔王そしてその斜め後にいるイェンはどちらとも「そうだろうなぁ」と言う顔をした。

「それにしても、どうして手間取ってるんだ?」

 魔王は夜空の二人を見上げながらイェンへ問う。

「そうは言いましても。あの悪魔、魔力きかないんですよ」
「あぁ……確かにお前でも難しそうか」

 エルディアブロには何かしらの防御術がかけられている。黒の魔族であるイェンは元々攻撃的な術を得意としており、自分より格上のそういった術に対抗するには少々難しい。

「魔王さまならなんとかなりませんか?」
「なるにはなるが、この術をかけた奴があれだと思うと、あとが面倒そうだ」
「そこですよね問題は」
「〝カミルラ〟には伝えたか? 留守の間は彼女に任せている筈だが」
「あー恐れながら魔王様、彼女に報告すればそりゃ一瞬で片が付くとは思いますが取り返しがつかなくなります」

 報告しなかったのは他にも理由があるが、わざわざ言う必要もないのでそれについてイェンは触れない。

「それもそうか」

 魔王もその言い分を聞いてその様を想像し納得したようだ。

「彼女は素晴らしい女性だがいかんせん気性が荒いからなぁ。仕方が無い」

 魔王が動こうとした時、いつの間にか這いつくばって迫っていた悪魔の子供達が勢い良く魔王の脚にしがみつく。

「エル様になんかしたら許さねーかんなー!!」
「これだから魔族なんて嫌いなのよ!」
「魔王のバカー! 嫌い嫌いー!」

 わらわらと怒って泣きわめきながらゴゾってその身体にしがみつく。

「お、おいコラ離さんか」

 魔王は困ったと脚元を見た。同じようにイェンも子供達にしがみつかれ疲れた顔で腕を組んで眉間に皺を寄せている。

「み、皆やめて。何もしないから」 

 マールがオロオロと声をかけるも誰も聴く耳をもたない。

「おっかしいなぁ。かなり翼重い筈なんだけど、君たち無理すんなよ翼使いモンにならなくなるぞ」

 だが子供たちは「うっさい!」と声をあげ泣きながらズビズビと鼻水まで足らしている者までいる。

 これではまるで本当に此方が悪者だ。

「ど、どうしたもんか。これではやりずらい」
「いやいや魔王さま。もうサクッと終わらせましょう」
「し、しかしだな。ただ眠らせるだけでも酷くショックを受けそうだぞ」
「そんな事言ってる間に人一人の命が消えますが」
「いや、そんな事はさせん」

 その様を空の上から眺めていた青年は(あぁ駄目だなこれは)と諦めていた。
 少しでも魔王に期待してしまった先程の自分を思わず恥じる。

(もう自分でなんとかするか)

 自身の襟首を引っ張り完全に締め上げられないようにしてはいるものの、そろそろ首も腕も限界だった。
 多少首が切れるのを覚悟で隙をついてこの悪魔の腰に蹴りを入れ、そのまま下敷きに落下出来ないか。だが普通に考えてこの高さで無事でいられる自信がない。出来ればこの悪魔も怪我をさせたくはない。
 となるとやはり適当に話をして納得させるべきか。例えば俺がお前の探してる奴に会わせてやると。しかし俺を殺すつもりならそれも出来ない。そこからちょっとした事で何癖をつけて、会えるまで数日かかるのを納得させる。
 もしくはこの悪魔の話しに共感し、仲良くなってしまうべきか。まぁとりあえず

(目的をハッキリさせた方がいい)

「あのさエル」

 すると、悪魔は気安く呼ぶなと青年を鋭く睨む。

「お前さ、何がしたいの?」
「何がだと? そんなもの貴様には」
「いやいや関係ないとは言わせないぞー。関係ないなら今すぐ解放してくれないと」
「くっ」

 案外アッサリと弱さを見せたこれはいけるかも知れない。

「何があったんだよ?」
「っっ黙れ。……そんなモノ言ってたまるかっ」

 まるで苦虫でも噛み潰したように顔を歪め、怒りを抑えるように小刻みに身体を震わす。

「何か?」
「っっ!!」

 言った瞬間エルの瞳が血走った。しくじったと咄嗟に首を引こうとしてももう遅い。次の衝撃を想像し反射的に眼を瞑る。その鋭い爪で首を掻っ切られ、血吹雪が舞うだろう。だがそれでもまだ助かる道をと思考を巡らすその時。
 まるで耳鳴りのようなキーンと響く音が辺りに響いた。

「ゔっぁ、ああ」

 誰かの呻き声にふと眼を開けると、青年は真っ白な何者かの衣服に抱き込まれている。

「報告を受けて来てみれば」

 青年を片腕に抱き上げ、空に浮かぶその姿はまるで月から舞い降りた使者のように美しい。
 真っ白な衣を身に纏い、月明かり照らされる白い肌、まるで絹のようなサラリとした真っ白な髪。
 そして何より男とも女ともとれるその美麗な容貌は見る者を魅了する。


「何をしているのですかエルディアブロ」


 よく響く淡々とした、けれど透き通るような声。

 エルディアブロは何かを切り裂くような格好のまま、微動だにせず呻くようにその名を吐き捨てた。
 そこでようやく自分が誰に抱き上げられているのかに気付く。

「ハクイ様!」

 そしてその瞬間、刺さるような視線でエルディアブロに睨まれた。



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