112 / 168
第五章
水魚の交わり13
しおりを挟む「知った事か。そもそも何故この俺が貴様らに合わせ引き下がらねばならない」
すると、魔王そしてその斜め後にいるイェンはどちらとも「そうだろうなぁ」と言う顔をした。
「それにしても、どうして手間取ってるんだ?」
魔王は夜空の二人を見上げながらイェンへ問う。
「そうは言いましても。あの悪魔、魔力きかないんですよ」
「あぁ……確かにお前でも難しそうか」
エルディアブロには何かしらの防御術がかけられている。黒の魔族であるイェンは元々攻撃的な術を得意としており、自分より格上のそういった術に対抗するには少々難しい。
「魔王さまならなんとかなりませんか?」
「なるにはなるが、この術をかけた奴があれだと思うと、あとが面倒そうだ」
「そこですよね問題は」
「〝カミルラ〟には伝えたか? 留守の間は彼女に任せている筈だが」
「あー恐れながら魔王様、彼女に報告すればそりゃ一瞬で片が付くとは思いますが取り返しがつかなくなります」
報告しなかったのは他にも理由があるが、わざわざ言う必要もないのでそれについてイェンは触れない。
「それもそうか」
魔王もその言い分を聞いてその様を想像し納得したようだ。
「彼女は素晴らしい女性だがいかんせん気性が荒いからなぁ。仕方が無い」
魔王が動こうとした時、いつの間にか這いつくばって迫っていた悪魔の子供達が勢い良く魔王の脚にしがみつく。
「エル様になんかしたら許さねーかんなー!!」
「これだから魔族なんて嫌いなのよ!」
「魔王のバカー! 嫌い嫌いー!」
わらわらと怒って泣きわめきながらゴゾってその身体にしがみつく。
「お、おいコラ離さんか」
魔王は困ったと脚元を見た。同じようにイェンも子供達にしがみつかれ疲れた顔で腕を組んで眉間に皺を寄せている。
「み、皆やめて。何もしないから」
マールがオロオロと声をかけるも誰も聴く耳をもたない。
「おっかしいなぁ。かなり翼重い筈なんだけど、君たち無理すんなよ翼使いモンにならなくなるぞ」
だが子供たちは「うっさい!」と声をあげ泣きながらズビズビと鼻水まで足らしている者までいる。
これではまるで本当に此方が悪者だ。
「ど、どうしたもんか。これではやりずらい」
「いやいや魔王さま。もうサクッと終わらせましょう」
「し、しかしだな。ただ眠らせるだけでも酷くショックを受けそうだぞ」
「そんな事言ってる間に人一人の命が消えますが」
「いや、そんな事はさせん」
その様を空の上から眺めていた青年は(あぁ駄目だなこれは)と諦めていた。
少しでも魔王に期待してしまった先程の自分を思わず恥じる。
(もう自分でなんとかするか)
自身の襟首を引っ張り完全に締め上げられないようにしてはいるものの、そろそろ首も腕も限界だった。
多少首が切れるのを覚悟で隙をついてこの悪魔の腰に蹴りを入れ、そのまま下敷きに落下出来ないか。だが普通に考えてこの高さで無事でいられる自信がない。出来ればこの悪魔も怪我をさせたくはない。
となるとやはり適当に話をして納得させるべきか。例えば俺がお前の探してる奴に会わせてやると。しかし俺を殺すつもりならそれも出来ない。そこからちょっとした事で何癖をつけて、会えるまで数日かかるのを納得させる。
もしくはこの悪魔の話しに共感し、仲良くなってしまうべきか。まぁとりあえず
(目的をハッキリさせた方がいい)
「あのさエル」
すると、悪魔は気安く呼ぶなと青年を鋭く睨む。
「お前さ、何がしたいの?」
「何がだと? そんなもの貴様には」
「いやいや関係ないとは言わせないぞー。関係ないなら今すぐ解放してくれないと」
「くっ」
案外アッサリと弱さを見せたこれはいけるかも知れない。
「何があったんだよ?」
「っっ黙れ。……そんなモノ言ってたまるかっ」
まるで苦虫でも噛み潰したように顔を歪め、怒りを抑えるように小刻みに身体を震わす。
「何かされたのか?」
「っっ!!」
言った瞬間エルの瞳が血走った。しくじったと咄嗟に首を引こうとしてももう遅い。次の衝撃を想像し反射的に眼を瞑る。その鋭い爪で首を掻っ切られ、血吹雪が舞うだろう。だがそれでもまだ助かる道をと思考を巡らすその時。
まるで耳鳴りのようなキーンと響く音が辺りに響いた。
「ゔっぁ、ああ」
誰かの呻き声にふと眼を開けると、青年は真っ白な何者かの衣服に抱き込まれている。
「報告を受けて来てみれば」
青年を片腕に抱き上げ、空に浮かぶその姿はまるで月から舞い降りた使者のように美しい。
真っ白な衣を身に纏い、月明かり照らされる白い肌、まるで絹のようなサラリとした真っ白な髪。
そして何より男とも女ともとれるその美麗な容貌は見る者を魅了する。
「何をしているのですかエルディアブロ」
よく響く淡々とした、けれど透き通るような声。
エルディアブロは何かを切り裂くような格好のまま、微動だにせず呻くようにその名を吐き捨てた。
そこでようやく自分が誰に抱き上げられているのかに気付く。
「ハクイ様!」
そしてその瞬間、刺さるような視線でエルディアブロに睨まれた。
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

紹介なんてされたくありません!
mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。
けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。
断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

どこにでもある話と思ったら、まさか?
きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~
シキ
BL
全寮制学園モノBL。
倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。
倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……?
真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。
一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。
こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。
今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。
当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる