魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
111 / 168
第五章

水魚の交わり12

しおりを挟む

 わらわらと此方へやってくる12人の黒い翼をもった子供達。
 それぞれが口々に「エル様に何してんだよー!」とか「エル様が調子悪そうだったのは魔族のせいだったのね!」「あぁ見て人間もいるわ!」とかなんとか好き勝手に騒いでいる。

 一体何処をどう見たらそう見えるのか、青年は月を背にエル様と呼ばれた悪魔に襟首を持ち上げられ、首には鋭い爪が今にも喉をかっ切ろうとしている。
 正直首がしまってとても苦しい状態だ。下手すると窒息死、もしくは首の動脈を切られ出血死、はたまた地面に落とされ転落死か。

(て、状況なのにあの子らには俺が悪者に見えるってワケか)

 青年は内心で苦笑する。

「やぁお兄さん随分と心配されてるようで、あの子らはまさかアンタの子?」

 軽い調子で話しかけると、悪魔は不愉快そうに前方を眺め舌打ちをする。

「ガキ共が……」

 その時突然空を飛んでいた悪魔の子達が地面へと次々に落ちる。「ギャーワー」と言いながらイェンの近くで落ちた子供達が翼が重いと口々に騒ぎ始めた。

「悪いけど君たちはそこで大人しくしてて貰うよ。直ぐ終わるから」

 どうにもイェンが何かしたらしい。ギャーギャーと騒ぐ子供達をマールが宥めている。

「いったいこれはどういう状況だ?」

 これまた突然聞き覚えのある声が城の方からした。まだ城に戻って来ない筈ではと思うイェンと、とか思ってそうだなと思う青年。

「こんな時間に何をしている?」

 庭園へと足を踏み出し、此方へと近付く黒髪の男、その長い髪が歩く度に月に照らされ肩を滑る。
 ふと顔を上げ、力強い真っ赤な瞳が青年とその悪魔を捉え見開いた。

「……何をしているんだ?」

 ここにきて珍しく魔王は怒ったように片眉を潜めた。青年がここに連れて来られてたった数日ではあるが、こんな表情は見た事がない。見た目や雰囲気は傲慢そうに見えても実際は穏やかで、直ぐ狼狽えるようなあまり頼りのない男なのだと思っていた。

「フン貴様には関係ない」

 だがエルディアブロは態度を崩す気は全くないらしい。

「それ以上近付けばこ人間の首を落とすぞ」

(おっと動脈を切られるどころじゃなかった)

 青年の首を汗が一つ流れる。

 魔王は暫し青年と悪魔を見詰め、イェンへと声をかける。するとイェンは片膝をついて頭を垂れた。

「申し訳ありません私(わたくし)がいながらこんな事に」
「それはいいどうなっている。いや多少察しはついてるが」
「実は今朝からその悪魔が妙な言い掛かりを、早くあの男を出せと騒いでおります」
「なるほど参ったな。あれはまだ戻らんぞ。だからと言ってあまり手荒な事もしたくはない」
「とりあえずあの人間はまだ大丈夫かと。ほら手を振る余裕があるくらいですから」

 確かに青年は此方へ軽く手を振っている。魔王は溜め息をつくと、また夜空へと向き直った。


「エルディアブロ。悪いがあれはまだ戻らん。今日のところは引き返してはくれないか?」


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

「頭をなでてほしい」と、部下に要求された騎士団長の苦悩

ゆらり
BL
「頭をなでてほしい」と、人外レベルに強い無表情な新人騎士に要求されて、断り切れずに頭を撫で回したあげくに、深淵にはまり込んでしまう騎士団長のお話。リハビリ自家発電小説。一話完結です。

処理中です...