魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり11

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 そんなこんなでマールも呼んで、三人は寝台の上で身動きがとれず座ったままの悪魔を前にする。

「それで? お兄さんはいったいなんのよう? まさか本当に俺とそういう事したかったワケじゃないだろ?」

 だが悪魔は苦虫を噛み潰したような顔をしただけだ。

「おーいお兄さんってば、せっかく仲良くなったんだからお話ししようよ」

 近寄って馴れ馴れしくも肩を抱く青年に悪魔の苛立ちはピークにたっする。

「触るな気色の悪い。いつこの俺が貴様なんぞと仲良くなった。寝言は寝て言え」
「なるほどお兄さんはそんなに俺と一緒に寝たいのか」
「その呼び方もやめろ」
「じゃあエルディアブロ?」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「ごめんごめんエル」
「…………貴様、そんなに早死にしたいか?」

 これでは埒が明かない。そうイェンが溜め息をつこうとした時。悪魔は大きく舌打ちをした。

「この俺が貴様らなんぞに用があると思うか? クソッこれもそれも全部あの男女おとこおんなのせいだ」

 まただとマールと青年は顔を見合わせる。このエルディアブロと言う悪魔は朝方来た時も色狂いがどうのと妙な事を言っていた。
 だがイェンだけが誰かを思い出したかのように天を仰ぐ。

「アイツは何処だ? 今すぐ呼んで来い」

 さもなければと言った瞬間、エルディアブロの濡れ羽色の翼が部屋全体に広がる。

「なっ!」

 咄嗟にマールの襟首を鷲掴み後退したイェンだが、次の瞬間には寝台に二人の姿はなく、慌てて窓の外へ身を出せば闇夜に浮かぶ二つの影。

「おいおい冗談だろう?」
「お、お兄ちゃん!!」

 青ざめた顔でバタバタとマールが部屋から出て行く。多分外へ出るつもりなのだろう。

「はぁ、全く」

 イェンは窓から庭へと飛び降りると空へ浮かぶその姿を見上げた。

「油断したよ。悪魔って飛ぶか消えるかしか能がないと思ってたけど、実は魔力でもあんのか?」

 月光を背に浮かびあがる青年。その首は、悪魔の鋭い爪に柔らかい皮膚を破られ血が滴っていた。

「何を馬鹿な。ただ貴様の魔力が俺程度に破られるくらいには劣るだけだ」
「言ってくれるね」
「事実あの男に比べれば貴様の力などたいしたことはない」

(いやそこと比べないで欲しいんだけど)

 それはともかくとして、エルディアブロに気付かれぬよう此方へ軽く手を振るその姿。案外青年に余裕はありそうだ。
 だが時間はない。今朝一度発動してしまった為、今の青年は簡易結界にさえ守られてはいない、生身の人間が邪気の中で耐えられるのはおよそ30分。
 その間にケリをつけたい。さてどうするか。

「そ、その人を放して!!」

 ようやく駆け降りて来たらしいマールが肩で息をして叫ぶ。だがエルディアブロはその声など聞こえないかのように見向きもしない。

「お兄ちゃん!?」

 マールの眼にも青年の首から滴る血が眼に止まる。だがそれと同時に青年が軽く手を振るのにも気付いた。
 その時だ。

「あーエル様やっと見付けたわー!」

 イェンの背後から子供の声が迫ってきたのは。

「皆~エル様いたぞー」
「え!? ホント!?」
「あ、エル様だ!」
「何してるのかしら?」
「あれ例の人間じゃねーか?」
「あぁそうだな」
「エル様がピンチ!?」
「大変だ大変だ!」

 マールはその姿を眼にとめて「なんで?」と驚く。確かにその背に翼をもつ十二人の子供達が飛んでくる。

(あーなるほど、今日は厄日か)

 更に面倒事が増えたとイェンは彼等に背を向けたまま眉間を抑えた。


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