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第五章
水魚の交わり11
しおりを挟む中は思っていたよりも明るかった。なんだかこの世界を無茶苦茶に変えた元凶の会社の割には普通の所だ。メインホールは広くて綺麗だ。清掃も行き届いている。もっと秘密基地っぽくて汚いところだと思っていた。なんか拍子抜けだな。
ここから桃を探すのには骨が折れそうだ。だがそれは普通にしたらの話だ。俺には秘策がある。
ポケットから1枚の布切れを取り出した。これは桃が着ていた服の切れ端である。もしも、桃とはぐれたりした時にヒルに探してもらえるように一応持っておいたのだ。
ヒルに切れ端を嗅がせる。ヒルはイヌ科なので鼻がいい。だから桃の匂いを追跡して居場所を見つけることができるのだ。
ヒルが地面に鼻をつけて歩き始めた。俺も後ろをついていく。
しばらく歩いていると、ふと気になることがあった。人がいない。人っ子一人いない。正面入口を守ってる人がいるから誰もいないってことはないはずだ。しかしいない。
置いてあったウォーターサーバーは最近使われてた形跡があった。だから完全に人がいないっていうのはないと思う。なんかよく分からない所だな。
それに結構入り組んでいる。とゆうより会社っぽくない。完全に研究所のようだ。そこら辺に自動で動いてるロボットや書類が置いてある。
またさらにしばらく進んでいると非常用扉の所についた。ここの前でヒルも立ち止まった。
「……ここにいるのか?」
「ワン」
「ワンじゃ分からんよ」
扉は銀色でまぁどこにでもある非常用扉という感じだ。分厚さは普通くらい。この先に桃がいるのかは分からないがとりあえず行ってみることにしよう。
ドアノブに手をかけた。しかし扉はあかない。扉の横を見てみると、小型のテレビみたいなのがついてあった。この扉に鍵穴はないから、こっちでパスワードでも打つのだろう。
小型のテレビみたなのに触れてみる。ピコッという電子音が鳴った。
「指紋認証中……画面から指を離さないでください」
「は?……え?」
画面から若い女の人の声が聞こえた。言われるがまま指をつける。
「指紋認証中……指紋認証中……合致しました。お入りください糞餓鬼様」
「は?おいなんだその名前。つーかなんで合致したんだよ」
カチャンと扉の鍵が開く音がした。なんか色々と納得できない。なんで俺の指紋が登録されてるんだろう。でも開いたしな……行くか。
扉の先は薄暗い廊下だった。空気がひんやりしててお化け屋敷みたいな雰囲気をしている。地面は大理石で踏む度にキュッキュッという音が出る。
灯りが見えた。何か音もする。ここから先には何があるんだろうか。とりあえず行かないとな。
そこはとても白くて、広い所だった。半径約30mくらいの円柱の空間でそこから壁に沿って下に螺旋階段が続いている。下までは目測で100mはある。すごい高い。
1番下には木箱や車が置いてある。もし落ちてもそれがクッションになれば生き残れるかもな。やりたくはないが。
道なりに沿って階段を降りる。ヒルの追跡はまだ終わってはいない。手すりもないのでうっかり横に転けたら落ちてしまう。うっかりで済む怪我ではなくなるぞ。
何段か降りるとと横に廊下を見つけた。ヒルもそこに入っていった。電気はついているのでホラー的な展開になることはないだろう。俺もその廊下に入っていった。
不気味な所だ。殺風景な白い通路がずっと続いている。どこかで変化はないかと探すが曲がり角があるくらいで何も無い。匂いも全くしない。まるで夢の世界に来たようだ。
ヒルはこんな所でも匂いを嗅ぎとることができるのかと感心した。俺だとなんか発狂しそうだ。
ガタッ
音がした。即座に矢をつがえて構える。ヒルも音を聞いたようで、唸りはじめた。
カツン……カツン……。
誰かが歩いてくる音がする。ここは十字路。どこに誰がいるかも分からない。弓を構えながら辺りを見渡す。何もない。でも音はする。頭がおかしくなりそうだ。
カツン……カツン……カツン。
音が止まった。近くにいる。もしかしたらこの階ではなく下の階かもしれない。呼吸が乱れる。気が狂いそうなほど何もない空間にいながら何かがいるという状況。俺にはとんでもないストレスが溜まっていた。
ストレスに耐えられない。だが走り出したらその何かに位置がバレる可能性がある。それはまずい。だから走るのではなく、すり足で移動する。これなら音は出ない。
少しずつだ。とにかくここから離れたい。ヒルも俺の状況を感じ取ったのか、できるだけ音を立てないようにしてくれている。この子は多分、そこら辺の人間よりも頭がいいんだろうな。
10mくらい移動した時、気がついた。音が止まっている。足音が聞こえない。聞こえないなら聞こえないでいいのだがそういう問題ではない。さっきまで聞こえていた音が無くなったのだ。
なぜ消えたのだ。疑問が頭を突っ走った。気のせいでは絶対にない。確実に何かがいる。その何かが俺を狙っている。体重が3倍に増えたような感覚に陥った。
ミシミシ……。
何か音が聞こえた。下からだ。見たところ廊下や階段は新品だった。だから老朽化で音を立てたのではない。何かが下で何かをしているのだ。
ドス。
下から手が出てきた。黒い手袋をつけている。一瞬何が起こったのか分からなかった。まぁ当たり前だろう。
その手は凄まじい力で俺の足首を掴んできた。
「なっっ――」
声を出す暇もなく、俺は地面へと引っ張られた。辺りの地面が崩れ落ち、俺の体もろとも下の階へと落ちていった。といっても4mほどだが。
辺りに砂煙が充満していた。地面に背中がぶつかる。痛い……が、これくらいは慣れた。まだ足首には掴まれてる感覚がする。
突然、砂煙の中から大柄の女性が出てきた。
俺の足首を掴んでいるのはこの女だ。
俺はそれを瞬時に理解した。
女が俺の腹めがけて拳を叩きつけてきた。当たるともちろんヤバい。体を捻って拳から逃げる。俺の体がいた位置に叩きつけられた拳はかなり硬いであろう地面に綺麗な穴を空けていた。
当たったら死ぬ。直感でそんなことはわかった。とりあえず女の手を離させないといけない。
クイーバーから矢を取り出して女の手に突き刺した。女の体が少し震えた。しかし手は一向に離れる気配はない。なんなら強くなった。
女がこっちに顔を向けた。明らかな殺意のこもった目をしている。これはヤバい。まじでヤバい。
俺は体を捻って女の鼻にめがけて蹴りを入れた。女の手が緩まった。その隙に女の腕を蹴り飛ばして、ゴロゴロと転がりながら女との距離をとった。
立ち上がって女の方を確認する。女との距離は5m。下の階には来たが、上の階とあまり風景は変わらない。
少し冷静になって女の容姿を見てみた。女の体格はとんでもなくでかく、身長は2mもありそうだ。髪は茶髪でロング。黒いスーツと手袋をしており、スタイルもいい。洋画に出てくる強い女の人みたいだ。
女が立ち上がった。この硬い地面に穴を空けられるほどのパワー。こいつも化け物だろう。気おつけないと。
「……チッ」
舌打ちをされた。俺も舌打ちをしたいくらいなんだがな。
「脱走者の次は侵入者……私を過労死させる気なの?」
「……別に休んでくれても俺は構わないけど?」
「それができたらいいんだけどね……でも、あの人のことを考えるならあなたを殺さないといけないの」
「一方通行の恋は痛い目を見ることが多いぞ」
「うるさい口ね。さっさと喋れなくしてやるわ」
女が手袋を引いた。手袋は結構薄いようで女の大きい手が強調されている。まさか黒幕の本拠地に入っていきなりボス戦とはな。……上等だ。
俺は弦を引いた。
続く
ここから桃を探すのには骨が折れそうだ。だがそれは普通にしたらの話だ。俺には秘策がある。
ポケットから1枚の布切れを取り出した。これは桃が着ていた服の切れ端である。もしも、桃とはぐれたりした時にヒルに探してもらえるように一応持っておいたのだ。
ヒルに切れ端を嗅がせる。ヒルはイヌ科なので鼻がいい。だから桃の匂いを追跡して居場所を見つけることができるのだ。
ヒルが地面に鼻をつけて歩き始めた。俺も後ろをついていく。
しばらく歩いていると、ふと気になることがあった。人がいない。人っ子一人いない。正面入口を守ってる人がいるから誰もいないってことはないはずだ。しかしいない。
置いてあったウォーターサーバーは最近使われてた形跡があった。だから完全に人がいないっていうのはないと思う。なんかよく分からない所だな。
それに結構入り組んでいる。とゆうより会社っぽくない。完全に研究所のようだ。そこら辺に自動で動いてるロボットや書類が置いてある。
またさらにしばらく進んでいると非常用扉の所についた。ここの前でヒルも立ち止まった。
「……ここにいるのか?」
「ワン」
「ワンじゃ分からんよ」
扉は銀色でまぁどこにでもある非常用扉という感じだ。分厚さは普通くらい。この先に桃がいるのかは分からないがとりあえず行ってみることにしよう。
ドアノブに手をかけた。しかし扉はあかない。扉の横を見てみると、小型のテレビみたいなのがついてあった。この扉に鍵穴はないから、こっちでパスワードでも打つのだろう。
小型のテレビみたなのに触れてみる。ピコッという電子音が鳴った。
「指紋認証中……画面から指を離さないでください」
「は?……え?」
画面から若い女の人の声が聞こえた。言われるがまま指をつける。
「指紋認証中……指紋認証中……合致しました。お入りください糞餓鬼様」
「は?おいなんだその名前。つーかなんで合致したんだよ」
カチャンと扉の鍵が開く音がした。なんか色々と納得できない。なんで俺の指紋が登録されてるんだろう。でも開いたしな……行くか。
扉の先は薄暗い廊下だった。空気がひんやりしててお化け屋敷みたいな雰囲気をしている。地面は大理石で踏む度にキュッキュッという音が出る。
灯りが見えた。何か音もする。ここから先には何があるんだろうか。とりあえず行かないとな。
そこはとても白くて、広い所だった。半径約30mくらいの円柱の空間でそこから壁に沿って下に螺旋階段が続いている。下までは目測で100mはある。すごい高い。
1番下には木箱や車が置いてある。もし落ちてもそれがクッションになれば生き残れるかもな。やりたくはないが。
道なりに沿って階段を降りる。ヒルの追跡はまだ終わってはいない。手すりもないのでうっかり横に転けたら落ちてしまう。うっかりで済む怪我ではなくなるぞ。
何段か降りるとと横に廊下を見つけた。ヒルもそこに入っていった。電気はついているのでホラー的な展開になることはないだろう。俺もその廊下に入っていった。
不気味な所だ。殺風景な白い通路がずっと続いている。どこかで変化はないかと探すが曲がり角があるくらいで何も無い。匂いも全くしない。まるで夢の世界に来たようだ。
ヒルはこんな所でも匂いを嗅ぎとることができるのかと感心した。俺だとなんか発狂しそうだ。
ガタッ
音がした。即座に矢をつがえて構える。ヒルも音を聞いたようで、唸りはじめた。
カツン……カツン……。
誰かが歩いてくる音がする。ここは十字路。どこに誰がいるかも分からない。弓を構えながら辺りを見渡す。何もない。でも音はする。頭がおかしくなりそうだ。
カツン……カツン……カツン。
音が止まった。近くにいる。もしかしたらこの階ではなく下の階かもしれない。呼吸が乱れる。気が狂いそうなほど何もない空間にいながら何かがいるという状況。俺にはとんでもないストレスが溜まっていた。
ストレスに耐えられない。だが走り出したらその何かに位置がバレる可能性がある。それはまずい。だから走るのではなく、すり足で移動する。これなら音は出ない。
少しずつだ。とにかくここから離れたい。ヒルも俺の状況を感じ取ったのか、できるだけ音を立てないようにしてくれている。この子は多分、そこら辺の人間よりも頭がいいんだろうな。
10mくらい移動した時、気がついた。音が止まっている。足音が聞こえない。聞こえないなら聞こえないでいいのだがそういう問題ではない。さっきまで聞こえていた音が無くなったのだ。
なぜ消えたのだ。疑問が頭を突っ走った。気のせいでは絶対にない。確実に何かがいる。その何かが俺を狙っている。体重が3倍に増えたような感覚に陥った。
ミシミシ……。
何か音が聞こえた。下からだ。見たところ廊下や階段は新品だった。だから老朽化で音を立てたのではない。何かが下で何かをしているのだ。
ドス。
下から手が出てきた。黒い手袋をつけている。一瞬何が起こったのか分からなかった。まぁ当たり前だろう。
その手は凄まじい力で俺の足首を掴んできた。
「なっっ――」
声を出す暇もなく、俺は地面へと引っ張られた。辺りの地面が崩れ落ち、俺の体もろとも下の階へと落ちていった。といっても4mほどだが。
辺りに砂煙が充満していた。地面に背中がぶつかる。痛い……が、これくらいは慣れた。まだ足首には掴まれてる感覚がする。
突然、砂煙の中から大柄の女性が出てきた。
俺の足首を掴んでいるのはこの女だ。
俺はそれを瞬時に理解した。
女が俺の腹めがけて拳を叩きつけてきた。当たるともちろんヤバい。体を捻って拳から逃げる。俺の体がいた位置に叩きつけられた拳はかなり硬いであろう地面に綺麗な穴を空けていた。
当たったら死ぬ。直感でそんなことはわかった。とりあえず女の手を離させないといけない。
クイーバーから矢を取り出して女の手に突き刺した。女の体が少し震えた。しかし手は一向に離れる気配はない。なんなら強くなった。
女がこっちに顔を向けた。明らかな殺意のこもった目をしている。これはヤバい。まじでヤバい。
俺は体を捻って女の鼻にめがけて蹴りを入れた。女の手が緩まった。その隙に女の腕を蹴り飛ばして、ゴロゴロと転がりながら女との距離をとった。
立ち上がって女の方を確認する。女との距離は5m。下の階には来たが、上の階とあまり風景は変わらない。
少し冷静になって女の容姿を見てみた。女の体格はとんでもなくでかく、身長は2mもありそうだ。髪は茶髪でロング。黒いスーツと手袋をしており、スタイルもいい。洋画に出てくる強い女の人みたいだ。
女が立ち上がった。この硬い地面に穴を空けられるほどのパワー。こいつも化け物だろう。気おつけないと。
「……チッ」
舌打ちをされた。俺も舌打ちをしたいくらいなんだがな。
「脱走者の次は侵入者……私を過労死させる気なの?」
「……別に休んでくれても俺は構わないけど?」
「それができたらいいんだけどね……でも、あの人のことを考えるならあなたを殺さないといけないの」
「一方通行の恋は痛い目を見ることが多いぞ」
「うるさい口ね。さっさと喋れなくしてやるわ」
女が手袋を引いた。手袋は結構薄いようで女の大きい手が強調されている。まさか黒幕の本拠地に入っていきなりボス戦とはな。……上等だ。
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