魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり06

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「お兄ちゃん!!」

 男の気配が消え失せほっとしたのもつかの間、イェンの眼に飛び込んだのは真っ逆さまにこっちに向かって落ちてくる。黄金色きんいろのーー。

「なっ!」

 咄嗟にリーベを地面へとおろして、落ちてくる者を受け止める。衝撃で地面を滑り込み、いつもはおさげに纏めているイェンの長い黒髪が土埃と混ざって地面に広がる。

「っっアンタ何してんだよ! あそこ三階だぞ!?」

 多い被さる青年にとりあえず怪我は無さそうだった。だがその身体がガバリと起き上がる。

「リーベ!!」
「ちょっあだっ!」

 イェンを軽く踏みつけ赤ん坊へと駆けより抱き上げる。

「無事か!?」

 ぱちくりと瞬く亜麻色の瞳。その瞳に青年をとらえると手足を広げて「ぱっぱ!」と嬉しそうに笑う。

「……っ!」


「あーもうまったく……人の話はちゃんと最後まで聞けってーの」
「リーベ! イェン様! お兄ちゃん!」

 踏まれた腹を痛そうに擦りながらイェンが青年に近付く、その後ろからちゃんと階段を使って降りて来たマールも駆け寄った。

「良かった何処もなんとも無さそう、お兄ちゃんも」
「そりゃあ僕が受け止めたんだから大丈夫じゃなきゃ困る……って、アンタ何泣いてんだ?」

 青年の瞳からドバーと滝のような涙が。

「あぁリーベいぎででよがっだぁ。あと魔王さまざまあみろ俺がパパだ俺の勝ち!」
「うわ、情緒大丈夫かよ。つーかまだその喧嘩続いてたわけ?」

 アホらしいとイェンは溜め息をつく。

「それよりお兄ちゃんなんで飛び出したりなんか」
「いやぁまぁイェンが動くのは分かってたんだけど、リーベが落ちる瞬間をみたら思わずな」

 ハハっと笑って誤魔化すように頭をかく。

「はぁ結界の外に出たら死ぬってのに」
「何言ってんだお前、リーベと同じ結界どうせ俺にもかけてんだろ?」
「してなかったらどうするつもりだったんだよ?」
「それでも30分あるからな」
「呆れた。僕が受け止めなきゃ打ちどころ悪かったかもよ」
「いやお前なら受け止めるだろ」
「その自信はどっから……はぁもういい」

 あぁそれにしても誰かさんのせいで髪は汚れたし背中はいてぇし腹もいてぇ無駄に痛い思いしたぁとイェンがわざと言って「悪かったって有り難う」と青年は笑う。そして真剣な顔をした。

「ところで、なんで結界のはってあるあの部屋にあの悪魔が入って来れたんだ?」

 一昨日はマールでさえも入れなかったのにと言うとマールもそう言えばと頷く。一昨日まで青年と赤ん坊がいた部屋は見て分かる程に部屋に結界が施され薄い紫色のオーラのようだった。心配した魔王が結界を何重にも何重にしたせいで本来見えない筈のモノが見えてしまっていたのだ。正直青年と赤ん坊の気配を隠す為だけを思うなら逆効果だったとも言えるがそれはある意味鉄壁の護り、邪気は勿論侵入者も許さない。マールはそれに触れて手を火傷したのだ。
 けれども今日はどういったワケかマールはアッサリ部屋へ入ってしまえたし、あの悪魔でさえも簡単に出入り出来てしまったらしい。

「あのさ…………その話、今ここじゃないとダメ?」

 そう言ってイェンが自分の服を引っ張ってみせる。

「お前……なんで寝間着姿なんだ? しかも変わった寝間着だな」
「誰かさんが僕に赤ん坊の面倒押し付けたからさっき起きたばっかなんだよ。あと故郷の寝間着がこれなの」
「あぁイェン様ごめんなさい!」
「いや、なんで君が謝んの? てーか誰かと思ったら昨日の灰の魔族の……あぁもういいから部屋に戻るぞ!」


 ――と言う訳で一旦戻った面々。
 イェンは一度自分の部屋で身支度を整えに戻り(勿論風呂にも入った)隣の部屋に入ると、青年がリーベの汚れた服を着替えさせていた。
 着替えの終わったリーベは青年の膝の上から降りようと手足をバタバタと動かす。

「……な、なんかリーベ凄い動くね。よく喋るし」

 戸惑いながらマールが近付くと、あーうあーうと赤ちゃん語を話してマールへ手を伸ばす。マールは青年から承諾を得ると「はいはい、どうしたの?」とリーベを優しく抱き上げた。その様子に椅子に座ったイェンが口を開く。

 「思うにこの子、ただ弱ってただけなんじゃないか? ネーベル森林に捨てられてたくらいだ、きっとロクな生活してなかったろうし、オマケにこっちに来てからも……いや僕達頑張ったけどね。頑張ったけどやっぱりなんの知識も無い状態じゃあどうにも」
「あぁ俺もそう思う発育が多少遅れてるかもな。まぁそれはそれとして、さっきの話だ」

「まぁそうなるよね」

 そう言ったイェンが三人に向かって頭を下げる。


「まずなんで入れたのかだけど……悪い。僕のせいですごめんなさい」


「は?」「え?」

「あーう?」



分かっているのかいないのか、リーベまでも二人と同じ反応で小首を傾げた。



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