魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり05

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「あのーすみませーん。そこのヘソ出してるおにーさん」
「お、お兄ちゃん!?」

 急に陽気な声で話しかけ始めた青年に、マールが止めに入るが「まぁ見てろ」と青年は片目を瞑ってみせる。

「すみませーん黒い髪で傷だらけでやたら肌を露出してる顔は悪くないおにーさーん」

 すると男は金色の瞳でギロリとこちらを振り向く。

「なんだ貴様は、鬱陶しい」
「あぁようやく気付いてくれた! いやねぇその腕に抱いてる子、探してたんだよ見付けてくれて助かった」
「だったらなんだ?」
「うん、だから返してくんない?」

「返すだと? ふん、人聞きの悪い。俺はこの赤ん坊には興味がないがたまたま入ろうとした部屋で泣きそうな顔のコレと目があったから外に連れ出しただけだぞ」

 男は鋭い瞳でこちらを睨むがその言葉に三人は「ん?」「あれ?」と思う。

「騒がれては後々面倒だからな」
「はぁなるほど?」
「それに何故俺がお前達の言う事を素直にきかなければならない? そもそも貴様らは誰だ」

 いやこっちが聞きたいんですけどと青年は思ったが、そこはぐっとこらえて

「どうも、一昨日から此方でお世話になっている人間です」
「それは知っている」
「えーと、ロワって呼んでくれ宜しく」
「誰が宜しくするか」

 マールも挨拶したが、似たような反応だった。

「はぁ」とイェンが深い溜め息をつく。

「あーもう無駄無駄。あれは“悪魔”だから何言ってもまともな返事なんか返しちゃくれないって」

「あ、悪魔? あれって悪魔なのか?」

 青年は空を飛ぶ男をもう一度見る。尖った耳黒い髪浅黒い肌、蝙蝠のような黒光りした不気味な翼に金色の瞳、あっちこっち破れた黒い服。

「魔族とは違うのか?」
「見れば分かるだろ。アンタここに来てからあんな魔族見た事あるか?」

 確かにない、ないけれど、度々人の街に悪さを働きにくる者達によく似ていた。

(あれは魔族だと思っていたけど……違うのか)

「まぁアンタが知らないのは仕方無いよ。何しろ人間だし」

 その言葉に思わず青年の動きが止まる。

「どうでもいいが貴様ら、この赤ん坊のなんだ?」

「「「へ?」」」

「俺にはコレを蔑ろにしているように見えたぞ? ガキの面倒をみないのは悪い事だと聞いてるが? あのいはそれを許したのか? 違うのか?」

((色狂い?))

 三人は顔を見合わせる。色狂いはともかくとして、どうにも話がおかしな方向に進んでやしないかと、いや確実に進んでいる。この悪魔は育児放棄か何かではないかと疑っている。

「いやなんで悪魔がそんな事心配するんだよ!?」
「バッカあれは心配してるとかじゃないから! てかそもそも悪魔ってのは価値感が色々ズレてっしビックリする程素直じゃないんだよ! 考えても無駄だから!」

「ん? 素直じゃないだけなのか?」

 青年はよしキタと悪魔の男に向き直る。

「あのーおにーさん! その子結界から出ると死んじゃうんだよね。早く返して貰っていい?」
「……だからなんだ」
「あ、じゃあいいです。あと5分以内に返してくれないと死んじゃうかも知れないけど、そうなってもお兄さんのせいだって色狂いさんに伝えとくんで」

「ふん、貴様に言われずとも泣かないコレにもう用は無い」

 男が手を離した。落ちていく小さな身体。空高くからリトスの花が咲きほこる真っ赤な大地へと真っ逆さまに。

「リーベ!」

 マールが思わず叫ぶ。

「あーこうなると思った」

 いつの間に近付いていたのか男の背後から飛び出したイェンが落ちていくリーベに手を伸ばす。

「はいセーフっと!」

 見事その腕にリーベを抱き止めた。


 その様を眺めながら男は全身を1枚1枚の羽へと変えていく。


「チッ……出直しだ」


 そしてその場から消え失せた。




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