魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第五章

水魚の交わり04

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「……なんてこった、どうりでやたら静かに寝てると思ったんだ」
「お、お兄ちゃん……」

 弾かれたようにベビーベッドに駆け寄った二人。そこにいる筈の赤ん坊の姿はない、もぬけの殻とはまさにこの事だ。

「早く見付けなきゃ、この部屋から出たらあの子死んじゃうよ」

 青年はリーベが寝ていたであろう布団を触る。

「……まだ暖かい、いなくなってからそんなに時間はたっていないな。イェン」
「あぁうん。この部屋から気配はしないよ。これは確実に結界の外に出たんじゃないかな」
「だとしてどのくらいの時間なら生きていられる?」

 するとイェンはまぁ落ち着いてと青年の肩を叩く。

「こんな事もあろうかとあの子に条件付きで発動する結界はっといたから」
「条件って?」
「この部屋から出たら発動する。だけど本当に簡易的なものだから」

 イェンは自身の顔の前で片手の人差し指と中指を立て何かの呪文を唱える。

「定期的にこうしといて頑張っても二時間。結界が解けてから邪気が全身にまわって死に至るまで30分。もって二時間半だな。けど赤ん坊だから」
「そうかだったらまだ時間はあるな」
「お兄ちゃん?」

 青年はベビーベッドの横の寝台に腰掛けた。

「まずどうして居なくなったかだけど、あの子は人間の赤ん坊。自分でこの部屋から出て行くのはまず不可能だ」
「だろうね」

イェンが肩をすくめる。

「となると誰かが連れて行った可能性が高い」
「けどオレ達が話している間、誰もそこから入って来てないよ?」

 マールは自分が入ってきた扉を指す。

「その通り。けど俺は朝起きた時開けたんだよ」

 寝台を横付けた壁、そこには

「この窓を全開に」

 慌ててマールが窓の外へ身を乗り出し、空を仰ぎ見る。

「い、いた!」

 弾かれたように叫ぶその先には、黒光りした不気味な翼をはためかせる男。そしてその腕に。

「リーベ!」

 窓の外を青年とイェンも仰ぎ見る。

「誰だアイツ」

 青年が見たのは空に立つように飛ぶ男。
浅黒い肌に衣服から剥き出しになっている身体は痛々しい程に古い傷あとだらけだ。その姿を見てイェンが「アイツは」と面倒くさそうに顔をしかめる。


「ふん、これが例の赤ん坊か」


 男は眉間に皺を寄せたまま片手に抱いた赤ん坊をしげしげと眺める。するとまるで不思議なモノを見るような無垢なリーベの瞳と目があった。


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