102 / 168
第五章
水魚の交わり03
しおりを挟むマールはきょとんとした。
「え? う、うんそうだね。皆そう言うから知ってるよ」
「そっかそうだよなぁ。流石にもうわかってるよな」
何処かホッとしたように青年はマールの肩に置いた手から力を抜く。
「ここに来るまでは知らなかったから最初は戸惑ったよ。魔族が4種族存在するって知った時は」
あぁそうだろうと青年は頷く。何しろマール達を育てたのは人間である自分達で、自分達にはその知識がなかった。教えようがなかったのだ。
「でも言われてみれば園にいた子は皆、黒髪の子は瞳が赤くて、白い髪の子は瞳が紫で、赤髪に翠の瞳は女の子だったなぁって、そしてオレは灰色の髪に青い瞳。不思議と人間みたいにバラバラじゃなかったよね。アル様みたいに藍色の髪の子なんていなかったし」
「あぁそうだ……これは俺達の責任だな。俺達が何も知らなかったからお前達も何も知らないまま育っちまった。すまない」
他の子ならまだいい、けどマールは他の種族と違い特殊な性を持つ灰の魔族。自分は男だと思って育ったマールのことだ、余程戸惑ったに違いない。
そう思う青年は思い詰めた顔でマールを抱き締めた。
「え、えーと……お、お兄ちゃん? 」
急にどうしたのかとマールは戸惑いながらも軽く抱き締め返す。
(にしても男でも女でもなく、男の役も女の役にもなれるって……いったいどう言う事なんだ? 性別が無いって事か? いやイェンは灰の魔族って性別だって…………駄目だ人間の俺にはサッパリ理解出来ない)
「あのー」
「あぁいい何も言うなマール、正直俺もまだ頭がついていかないよ」
「へ? 何が」
「何がってお前……」
顔を上げてマールを見る。するとその困った表情に青年は違和感を覚えた。
「…………まさか、いや」
「え?」
「マールお前、灰の魔族について述べてみろ」
「えぇ?」
「いいから」
「えーと灰の魔族は他の魔族より寿命が短くて珍しい存在……」
「それで?」
「青い瞳で灰色の髪……」
「他には?」
「え? 他にもあるの?」
無垢な瞳で驚いたように瞬く。
「……………………」
「お、お兄ちゃん?」
(知らないのか!)
「は、ははは、何やってんだよハクイ様、そりゃないよ。自分で連れて来たんだからそこは責任持ってさぁ」
青年はマールから離れてテーブルに倒れ込むように項垂れる。
(どうする? 教えるか? 教えた方がいいか? いや絶対教えるべきだ。マールはもう14歳なんだ知っておいた方が絶対いい。だって、灰の魔族って……妊娠する可能性があるんだろ? でも果たしてこのタイミングで本当にいいのか??)
「な、なんか分からないけど、見た事ないくらいにお兄ちゃんが狼狽えてる……?」
その様子にマールが困惑していると、何かに気付き突如青年が勢いよく起き上がる。
「ま、マールお前今何処で寝起きしている?」
「へ? えっとえっと下働きの人専用の」
「そこに男はいるのか?」
「へ? 男しかいないけど?」
「それは大丈夫なのか? なんともないのか? 湯浴みはどうして」
「大浴場で皆と一緒に」
「ハクイ様!!」
「なんでそこでハクイ様!?」
「ちょっとハクイ様探してくる」
「えぇなんでなんで!? て、ダメだよ部屋から出たら! お、お兄ちゃんってば! い、イェン様起きて! 早く起きて下さーい!」
バアアアアンンン!!!
隣の部屋に繋がっている扉が乱暴に開いた。
「ああああもううるっっっさい!!」
「イェン様!」
「朝方やっと寝かし付けに成功したってぇーのに、リーベが起きちまったらどーしてくれ……って」
寝起きですと言わんばかりの寝汚い格好でズカズカと入って来たイェンの眼に映ったのは、必死に青年の服を引っ掴んでいるマールと、今にも部屋から出ようとする青年
そして
「おい、ちょっと……リーベは?」
「「え?」」
空になったベビーベッドだった。
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。
夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。
キャラクター
シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm
ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目
ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm
頭…中年 盗賊団のトップ 188cm
ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる
ひよこ麺
BL
30歳の誕生日を深夜のオフィスで迎えた生粋の社畜サラリーマン、立花志鶴(たちばな しづる)。家庭の都合で誰かに助けを求めることが苦手な志鶴がひとり涙を流していた時、誰かの呼び声と共にパソコンが光り輝き、奇妙な世界に召喚されてしまう。
その世界は人類よりも高度な種族である竜人とそれに従うもの達が支配する世界でその世界で一番偉い竜帝陛下のラムセス様に『可愛い子ちゃん』と呼ばれて溺愛されることになった志鶴。
いままでの人生では想像もできないほどに甘やかされて溺愛される志鶴。
しかし、『異世界からきた人間が元の世界に戻れない』という事実ならくる責任感で可愛がられてるだけと思い竜帝陛下に心を開かないと誓うが……。
「余の大切な可愛い子ちゃん、ずっと大切にしたい」
「……その感情は恋愛ではなく、ペットに対してのものですよね」
溺愛系スパダリ竜帝陛下×傷だらけ猫系社畜リーマンのふたりの愛の行方は……??
ついでに志鶴の居ない世界でもいままでにない変化が??
第11回BL小説大賞に応募させて頂きます。今回も何卒宜しくお願いいたします。
※いつも通り竜帝陛下には変態みがありますのでご注意ください。また「※」付きの回は性的な要素を含みます

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる