98 / 168
第四章
塞翁が馬24
しおりを挟む「ってそりゃ喋るでしょうよ!」
我に返った青年が魔王の頭を叩く。
「これでも“うー”とか“あー”とか言ってる時はありましたから!」
「そ、それは分かってるがわざわさ叩かなくとも良いだろう!? 本当にその手癖の悪さどうにか」
「そんっな事はどうでもいーんですよ! 今重要なのは」
青年は赤ん坊を持ち上げる。
「リーベが初めて話す言葉が魔王さまの事らしいって事ですよ!」
「……ん? いやそれは別にいいだろう」
青年が持ち上げた赤ん坊、いやリーベは魔王へ両手を広げて「まーお!」と笑う。
「やはり私の事のようだな」
魔王はリーベに呼ばれるがまま、彼女を抱き上げた。するとキャッキャッと嬉しそうに騒ぐ。
その姿にほっこりしていると、青年から物凄い視線を感じ硬直した。
「な、なんだどうした?」
「なっっっとくいきません、なんで初めてが俺じゃないんですか。リーベ、ロワって言ってごらん?」
「おいおい」
「ハッ! いや寧ろこれはパパと呼ばせるチャンス!? ほーらリーベ パパだよ~呼んでごらん」
「な、それはズルいぞ! リーベ私がパパだ!」
「どっちもパパでどうすんですか! 魔王さまはママにしとけばいいでしょ!?」
「いやいや意味が分からん! 寧ろ二人ともパパでいいだろう!」
「それじゃどっち呼ばれたか分かんないじゃないですか」
「た、確かに」
そんなズレた言い合いをリーベはキョロキョロと見上げる。
するとそこへ……
「まったく騒がしいと聞いて来てみれば、何をそんなつまらない事で争っているのですか」
呆れた顔でハクイが部屋へと入って来た。
「くだらなくなんてないですよハクイ様。これは重要なことです」
するとハクイの後ろからイェンも入って来る。
「いやいやくだらないって。ずっとこのまま騒がれてちゃ隣の部屋の僕の精神状態がもたないってば」
と言いながら。
「そうは言っても魔王さまが」
「おいちょっと待て私のせいか?」
「お二人ともいい加減にしなさい!」
ハクイはピシャリと言うと、二人の間にいたリーベを抱き上げる。
「まったく赤ん坊の前で本当に見苦しい。少し頭を冷やして下さい。そもそも言葉を話すようになったのなら先にそっちを喜ぶべきでしょう。パパだろうとママだろうと名前呼びだろうとどっちでも」
するとリーベはハクイの服を軽く引っ張る
「なんですリーベ」
ハクイと眼が合うとリーベは嬉しそうに笑って
「まんっま!」
その場にいた全員が固まった。
「リーベ……今なんと?」
「まんまー!」
やはりその場が凍る。
そんななか、魔王は勇敢にも言った。
「は、ハクイよ。多分そのー、マが言いやすいだけだ。まが、私の事もそうだしきっと意味も分かっておらんだろうし……勘弁してやってくれ」
「何を言ってるんですか魔王さま。わたくしは別に怒ってなど」
とは言うがその顔はニコニコと笑いながらも物凄く、そりゃもう引きっつっている。
「リーベわたくしはママではなく」
「まんま」
「……そうですか」
ハクイはよろよろと側にいたイェンに赤ん坊を預けると部屋の外へと向かう。
「まぁとにかくです。あまりくだらない話で人様に迷惑をかけぬようにして下さい」
「は、はい」
「わ、わかった。すまん」
そうしてハクイは部屋から出て行った。
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。
夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。
キャラクター
シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm
ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目
ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm
頭…中年 盗賊団のトップ 188cm
ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

社畜サラリーマン、異世界で竜帝陛下のペットになる
ひよこ麺
BL
30歳の誕生日を深夜のオフィスで迎えた生粋の社畜サラリーマン、立花志鶴(たちばな しづる)。家庭の都合で誰かに助けを求めることが苦手な志鶴がひとり涙を流していた時、誰かの呼び声と共にパソコンが光り輝き、奇妙な世界に召喚されてしまう。
その世界は人類よりも高度な種族である竜人とそれに従うもの達が支配する世界でその世界で一番偉い竜帝陛下のラムセス様に『可愛い子ちゃん』と呼ばれて溺愛されることになった志鶴。
いままでの人生では想像もできないほどに甘やかされて溺愛される志鶴。
しかし、『異世界からきた人間が元の世界に戻れない』という事実ならくる責任感で可愛がられてるだけと思い竜帝陛下に心を開かないと誓うが……。
「余の大切な可愛い子ちゃん、ずっと大切にしたい」
「……その感情は恋愛ではなく、ペットに対してのものですよね」
溺愛系スパダリ竜帝陛下×傷だらけ猫系社畜リーマンのふたりの愛の行方は……??
ついでに志鶴の居ない世界でもいままでにない変化が??
第11回BL小説大賞に応募させて頂きます。今回も何卒宜しくお願いいたします。
※いつも通り竜帝陛下には変態みがありますのでご注意ください。また「※」付きの回は性的な要素を含みます

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる