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第四章
塞翁が馬23
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――
「――おーい、魔王さま!」
何処かで聞いた事のある声が聞こえて魔王は眼を覚ました。
「はっ……私は寝ていたのか?」
瞳を開けると目の前には青年の空色の瞳。
「うおっ! なんだ近いぞ!」
「え、それ魔王さまには言われたくないんですけど」
状況を把握しようと辺りをみれば、見覚えのない部屋。
なんと言うかとてもパステルカラーのファンシーな。
そう何故かユニコーンやクマの縫いぐるみが宙を浮いている。まるでおとぎ話のような妙な空間。可愛いと言えばまぁ可愛いのだろう。
そしてこれまた何処かのお姫様のベッドのような場所で大の男、ようは自分が寝ているという不可解な状況。ついでにその横にこれまた男が一人、赤ん坊を抱いて座っている。
「こ、ここは?」
「なんだもー魔王さまったら覚えてないんですか?」
「は?」
魔王が分からんと固まっていると、呆れたように青年が語りだす。
「だからですね。この子の名前付けたでしょ」
青年が胸に抱く赤ん坊を見る。そしてまた魔王を見た。
「あ、あぁ」
「そのあと互いの名前の話になったじゃないですか、覚えてます?」
「そー言えばそうか」
「そうそう、で、魔王さまの名前を聞いたら魔王さま話しを濁したんですよ」
「んー? うん」
「あまり人前では言いたくないのかなぁと思って、そのままこの俺とリーベの新しい部屋に移動して、俺がしつこく聞いたんです。だってそうでしょう。俺はちゃんとロワだって答えたのに、魔王さまは教えてくれないなんてズルいじゃないですか」
「そ、そうか?」
「そうですよ! せめて偽名でもいいから教えろって言ったらなんか昔の事をつらつらと語りだして、勝手に満足して寝たんです」
青年には悪いが魔王はサッパリ記憶にない。
「しまいにはその金髪の少女と俺がよく似ているとか言い出して」
「あぁうん。そうだなスッカリ忘れていた筈なんだが……今朝お前を見てからというものどうにも度々思い出す」
「……魔王さま。実は酔っぱらってます?」
「あ、いやすまん。どうかしていた。うん」
「で、結局魔王さまの名前ってなんなんですか?」
と言われても魔王は困ってしまう。何故なら。
「そうは言ってもなぁ。二つとももう馴染みも薄いし、そもそも随分長いこと魔王で通っているからな。今更名をどうのこうの言われても」
「え、いやそれ誰かと会う時とか、色々不便じゃないですか?」
魔王はうーんと考えて「いや全く」とキッパリ答えた。
「そう言えば《東の方》とか《東の魔王殿》とか呼ばれているな」
「……そんなバカな」
「いや本当に、そう言えば北の魔王も北の方とか北の魔王殿と呼ばれているし、私もそう呼んでいる」
「おいおい」
青年は思わず呆れる。
「はぁじゃあなんか適当にーー」
「まお!」
「そうマオって……魔王さま、今何か言いました?」
「いや私は何も……お前こそ」
二人はまさかと下を見た、正確には青年の膝の上を。
すると赤ん坊が瞳をキラキラさせて魔王に手を伸ばす。
「まーおぅ!」
「「……」」
「まーあ!」
「「……」」
「「しゃ、喋ったああーーーー!??」」
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