魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第四章

塞翁が馬21

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城の窓から星明かりが真っ赤な玉座を照らす。

「……今なんと言った?」

その玉座に腰を据えた男が眉ひとつ動かさずそう問うた。

「もうそこは、お前の座るべき場所ではないと言ったんだ」

見窄らしい姿で淡々と答え、暫し互いの赤い瞳の奥を探る。


(この男が……)

初めて眼にしたその男は、玉座から微動だにしない。そして自分とそっくりな黒い髪に赤い瞳。
ただ違うのは自分より遥かに歳上で、その長い髪を一つに束ねていること。


「……待ちわびたぞ」


そして妙に顔色が悪いことか。


「しかしよくもまぁ……民も城の者もみなダメにしてくれたものだ」

たった二人だけの静まりかえった空間に男の声がよく響く。

「……ただ眠らせただけだ。誰一人殺してはいない。お前を片付けたらどいつもこいつも目覚める筈さ、私がそうした」

「ほう? 貴様はそれほどの魔力をもつということか」

何故か面白そうに笑う男に眉を潜める。
そして側で倒れている兵士の腰から剣を引き抜いた。

「そんな物を持ってどうする? 子供が持つ物ではないぞ」

「こうするんだよ」

男に近付きそのまま胸を貫く。

初めて感じる肉を貫く感触に、聞いた事もない呻き声。

「っっぐぅ」

「…………何故」

ずぶずぶと、簡単に埋まった剣。

「何故、何も、抵抗しないんだ……?」

勝手に震えだした自分の手を片手でおさえ、よろよろと剣から離れて目の前の男に問う。
するとしっかりとそこに座っていた筈の身体がぎこちなく傾き、絞り出すように「よくやった」と言われた。
そしてぎらりとした瞳でこちらを見て

「し、かし……もう少し楽に、死にたかったが……少しズレたな、下手くそめ」

嬉しそうに微笑する。

「何言ってんだ、アンタ……何が嬉しいんだ」

「ふ、ふふふ。手間をかけさせおってっ……この、バカ者が」

苦しげにそう言うと何処かへ目線を送る。

(……?)

その視線の先にある柱の影から一人の魔族が現れた。
真っ白な長い髪、透き通るような紫の瞳、真っ白な出で立ちの美しい魔族が。


(なっ確かに城の者は全て眠らせた筈なのに、いったいいつから)

身構えるもその者はこちらには眼もくれず、男の方へ駆け寄った。

「……魔王さま」

側に膝をつくと青白くなったその手をとって両手でしっかりと握る。

「はは、余はもう違う。あとは任せたぞ……ハクイ」

「はい」と切なげにこたえ、ハクイと呼ばれた者はこちらを静かに見上げる。

すると城の窓から月明かりが自分とハクイとの間にいる男を照らした。
まるで迎えに来たかのように……。

一瞬にして周りの物が見えなくなる、ただ青暗い世界の中心で、三人だけがそこにいた。
唯一この世界を灯すのは今息を引き取ろうとしている男に向けられた光のみ。

「……月が終わりを、そして新たな誕生を見届けるのです」

青暗い世界の空に満月が浮かんでいる。

「なんの事だ?」

「貴方は全てを受け継ぐ」

「何を……っ!」


急に視界がぐらりと揺れた。
見たこともない風景、情景、感情、知識が頭の中に流れ込む。

(これは……)



『それは、今までの魔族の王の記憶だ』



突如頭の中に声が響く。
莫大な情報量に面食らいながら、けれどこの声が誰なのかハッキリと分かる。
自分が初めて刺し殺す男。

『新たな魔王は歴代の魔王の記憶と魔力を受け継ぐ。月の力によってな。そして現魔王が息を引き取るほんの一瞬の間に次の魔王へとその全てが叩き込まれる』

(何を言って?)

『つまりは余が死ぬ間際、貴様に全てが受け継がれるのだ。……感じぬか? 己の魔力が変わっていくのを』


確かに急速に自分の魔力が増幅していくのを感じた。そしてその質もより濃いものに。


『まぁ心配するな。困った事があればハクイを頼るが良い。あれはこの城で特に役に立つ……せいぜい足掻け』


男の姿が霞んでゆく。


『――新たな王よ』



「ま、待て!」




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