魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
89 / 168
第四章

塞翁が馬15

しおりを挟む

 翌朝、少女は現れた。
その真っ白なドレスが地面につかないよう両手で持ち、肩で息をしながら泉の辺りを見回す。

けれどもいつもの場所に彼の姿はなかった。
代わりに木の影に隠れるように一本の花だけが置かれている。
彼女はベールを上げると、その花を手にとり、そして森を見詰めた。


「……行ってしまったのね」


そしてもう一度、花を見詰める。
それは彼女の瞳と同じ、綺麗な空色の花びらだった。

「最後に、この姿を見て欲しかったんだけどな」

寂しげに微笑すると、直ぐそばから泣き声が聞こえた。

まるで赤ん坊のような。

振り向くと泉の傍に


「え?」


少女は一瞬眼を見開いて、そして直ぐ優しげに目尻を下げる。
赤ん坊をそっと抱き上げると、嘘みたいに泣き止んで、すやすやと寝息をたてだした。


「貴方……そう、そうなのね」



遠くから聞こえる少女を呼ぶ声と足音。
それがだんだんと近付いて


「姫さまー姫さま!」

自国から共に来たお目付け役が、少女の元へ。


「こんな所に! 何もこんな日まで手を煩わせてくれなくても! さぁもう式が始まりますお早く」

そこまで言ってその女性は振り向いた彼女の姿にぎょっとした。


「姫? 違うわ。私はもう、あの方とそしてこの国の王妃なのですから」


吹っ切れたように歩きだす我が主に。

「ひ、姫さま! その腕の者はいったい、姫さま!」

これまた面倒な事になったと青ざめ、冷や汗を流しながらお目付け役はあとを追う。



「レーヴ、私はこの子と共に頑張るわ。貴方もきっと」




彼女にはもはや迷いも戸惑いも恐れもない。

すみわたる青空の元、小さな王妃はしっかりとした足取りで、自分のあるべき場所へと進むのだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

処理中です...