魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
87 / 168
第四章

塞翁が馬13

しおりを挟む



「選ばれた?」


水面みなもを見詰め、坦々と語っていた彼のかたわらで、少女が呟くように聞いた。


「俺も詳しくは知らないが、なんでも《その時が来る》と、その代の魔王にだけ、次の魔族の王が誰かわかるらしい」
「それで、貴方を?」
「あぁ。俺にその玉座をとられまいと、躍起になっている」
「でもそれはおかしいわ。普通、王になるのは王族の者ではないの?」

その言葉で、ずっと水面を見詰めていた若者の顔が上がる。

「人間はな。だが魔族は違う。魔族に王族は存在しないんだ」

「存在しない?」

「俺も少し話を聞いたぐらいの知識しかないんだが。……人間は魔族や魔族の土地に近付けないだろ? それは人間が邪気にあてられると死んでしまうからだ。魔族の赤ん坊も、14の歳を向かえるまで人間と変わらず育つ。だが親は己の身に邪気を宿している。言っている意味が分かるか?」
「えぇ、一緒にいると赤ん坊は亡くなってしまうのね」
「そうだ。魔族は我が子を育てる事が出来ない、だからこの聖なる泉に預けるんだそうだ」

「ここに」

二人は目の前の泉に目を向けた。

「そして赤ん坊は14の歳をむかえると徐々にその身に邪気を宿し、自分は魔族だと気付いて生まれた故郷へ帰る。その時には、子も親も互いに見付ける事は不可能だ。それもあって王族制度など生まれなかったんだろう。《魔王》と言うのはその言葉の通り、その国の《魔族を統べる王》。《その時》が来れば、誰であろうと選ばれる。……多分な」
「なんだか不思議ね」

ふぅと息をついて、少女は自分と彼の背にある木に寄りかかった。

「……でも、俺は、王になどなるつもりはない。だからと言って死ぬつもりも。だからずっと逃げ続けて、追い詰められ、気付いたらここにいた」

思い詰めたように暫し押し黙り、思い出したかのように口を開く。

「……知っているか? この世に存在する国々には必ず、人間の王と、魔族の王が存在する。互いに干渉しないようにしながらも、両者が揃わなければ国として認められないんだそうだ。
だからこの妙な泉だって、別にここだけにしかない訳ではない。俺は長いこと国を越えて各地を逃げ惑った。それなのに、自分が捨てられ、父が拾ってくれたこの泉に、俺が過ごしたこの地に、無意識で戻って来てしまった」

皮肉だろう?そう言って彼は苦笑する。
だが彼女は笑ったりしなかった。

「知っているわ。私の祖国でも、大きな湖を挟んだむこうに魔族が住んでいると言われていたし、森の中にこの泉がある場所もあると言われていたもの。でも貴方は他のどの場所でもなく、この場所へと戻って来たのでしょう。それにはちゃんと意味があるのよ」

すっと少女は立ち上がり、泉の前へ走って行くと、くるりと振り向いた。

「貴方が、この地の《魔族の王》だからだわ」

彼女の金の髪が陽に照らされ、光輝く。

「何を言って、俺は」

「レーヴ、私はね。貴方は素敵な王になると思うの。きっと人々を導ける。素敵な王様に。だって、貴方は私にこんな夢のようなひとときをくれたのだもの」

「なんの、事だ?」


「お城の外で、自分の役目を忘れ、お友達と一緒に過ごす。そんなちっぽけな夢よ」


彼女の空色の瞳が本当に嬉しそうに、けどやっぱり何処か悪戯っぽく揺れる。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

どこにでもある話と思ったら、まさか?

きりか
BL
ストロベリームーンとニュースで言われた月夜の晩に、リストラ対象になった俺は、アルコールによって現実逃避をし、異世界転生らしきこととなったが、あまりにありきたりな展開に笑いがこみ上げてきたところ、イケメンが2人現れて…。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

処理中です...