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第三章
名は体を表す31
しおりを挟む「いやしっかし、変な名前にならなくて良かった良かった」
軽い調子の声がした。イェンだ、面倒な問題を解決出来たと、すっかり気を抜いている。
その言葉に青年も調子を合わせた。
「全く本当そうだって。名は体を表すって言うからな。本当もうスピネルやらユークレースやらかんやら出て来た時はマジでどうしてくれようかと」
「そんなにおかしかったか?」
「おかしい以外の何があるってんですか」
至って真面目に聞いてくる魔王に、青年は即答した。
「どうせなら愛のある子に育ってほしいですよ」
赤ん坊、いやリーべを抱きながら、青年は「ね~?」とその小さなレディに同意を求める。
するとリーべは青年の頬に手を伸ばしてふにっと笑う。と同時に彼の頬をふにっと引っ張った。
「あでででで、手癖が悪いな」
「お前がそれを言うか」
魔王は青年の後ろから、頬を掴むその小さな手をそっと離す。
そこでふと気付く。
そう言えば自分はこの少年の名を知らないと、本当ならとっくの昔に知っていてもおかしくなかったのだが、不思議な事に尋ねるのをすっかり忘れていたと。
機嫌良くリーべに話しかけながら青年はゆっくりと魔王から離れ、窓際の方に歩いて行く。
日の光がまた、今朝のように彼の髪を照らした。
くすんだ黄金色の髪が黄金色に輝き、魔王の目を細める。
無意識に言葉が出た。
「お前はなんと言うんだ?」
「はい?」
「お前の名だ。聞いてなかったと思ってな」
「あぁ」
と、青年がそう言えばという顔をし、「そうだなー」と呟いて、顎に手をやり、何か考える。
すると
「知りたいですか?」
面白い事を思いついたように意地悪く
「あぁ教えてくれ」
青年は微笑して
「ロワ」
と一言。
その言葉の意味に気付き、マールが漏れそうになった悲鳴を人知れず押し殺し、青ざめた。
『まさかバレてはいないだろうな?』
アルデラミンの声が頭の中で響く。
『なるべく大事にはしたくない』
(なんで、なんで、よりによって、そんな)
『お前には苦労をかけるが、頼んだぞ』
「ある地域では《国王》って意味らしいですよ」
(そんな《偽名》を!)
「ハハ、また大胆に出たな」
しかしその言葉の意味を知っても、冗談だろうと魔王は笑う。
「そう言う魔王さまは?」
「私か?」
聞かれたのが意外で、思わず聞き返した。
「そうだな。私はー」
青年の日に照らされた黄金色の髪。
真っ直ぐ見詰めてくる空色の瞳。
今朝見たあの夢が、確かな記憶として
一人の男の中で鮮やかに蘇った。
あの天使のような髪に瞳にあの声の――。
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