62 / 169
第三章
名は体を表す20
しおりを挟む「どうやらここにもアイツはいないらしいな。……それで、お前は知っているのか?」
先に口を開いたのはアルデラミンの方だった。
マールは小さくその言葉に頷く。
「手紙を預かって来ました」
手紙とは言い難い紙切れを渡すと、彼は眉を潜め二つ折りにされた紙を開いた。
「まさか本人に直接渡せるとは思わなかったので、本当はソフラさんに頼むつもりだったんです」
「そうか……」
言うと、読み終えたのか紙切れをぐしゃぐしゃに握り潰す。
「あの、なんて?」
「……折を見て迎えに来いと」
マールが恐る恐る聞くと、彼はさも不機嫌そうに言う。
「え、それだけ?」
「そうだ。マール、アイツは何処で何をしている?迎えに来いだけでは行こうにも無理だ」
「だよね。えっと、あの人は今魔王城にいます」
長い沈黙のあと彼は「は?」と短くこたえた。
「そこで今育児に勤しんでます」
「いや待て、さっぱり話がみえん」
眉間を押さえる姿に、マールは魔王が人間の赤ん坊を拾った事。育て方が分からず人間を必要とした事。そこでたまたま青年が連れていかれ今は魔王の城で育児に勤しんでいる事をなるべく分かりやすく話した。
「クソッどうりで何処を探しても見付からない訳だ。アイツが例のごとく城を抜け出し、顔見知りの老夫婦の元へ農作物の収穫を手伝いに行ったのまでは突き止めたんだ。だが結局アイツは現れなかった。いったい何処をほっつき歩いているのかと思ったら、あぁクソッ相変わらず予想の斜め上をいく人だ。悪い意味でな!」
怒りを露にテーブルを思いっきり殴る。その姿にマールが何も言えずにいると、気付いたアルデラミンは咳払いをした。
「すまん。いつもの事だがあまりの荒唐無稽っぷりに思わずな」
「今回はあの人のせいじゃない気が」
「半分は自業自得だろう。それに邪気の充満する土地にそれも魔王の城にどう迎えに行けと言うんだ」
「た、確かに」
「だいいち、アイツが赤ん坊を連れて帰って来れば済む話に思えたが?何故そうしない」
「それはオレにも分からないけど、でもまだ戻る訳にはいかない、みたいな事を言ってた」
「フンッそうか」
アルデラミンが立ち上がると丁度お茶を用意したソフラが入って来た。
「あら、もうお話は済んだんですか?お茶はどうします?」
すると彼は無言で盆の上からコップを掴み、そのまま一気に飲み干してまた盆の上に戻す。
「まぁ行儀の悪い」
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。



【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる