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第三章
名は体を表す14
しおりを挟むネーベル森林を抜ければいよいよ人間の暮らす土地になる。
歩きながらその場が近付くたびマールは少し緊張した。
この森は邪気が渦巻いている為、普通の人間なら絶対に入ろうと思わないし近寄らない。
その為、森の前を警備する者もいないので人間の土地に入り込むのは至極容易い。
けれど万が一、森の中から平然と出てきた自分の姿を人間に見られる訳にはいかないと、マールの心配はそこにあった。
(そういえば、ちゃんと食べてくれたかな?)
昨晩と今朝自分で作った料理を思い出す。
マールは昨日あの人間の食事は自分に任せて欲しいとハクイに頼んだのだ。今厨房を任せている者に人間の食事を知る者がいないのもあり、ハクイは快く了承してくれた。
厨房を借りて人間が食べれそうな物を探し、尚且つ人間の食事に見た目や味をなるべく近付けたつもりだが、やはりどうしても人間が食べて問題のなさそうな食材が少なかった。
と言うのも、魔族が暮らす場所は元より邪気が地中から立ち込めている為、そこで育てた動植物も邪気を取り込んで育ってしまうのだ。
その邪気を取り除く手立てがない訳ではないが、いかんせん時間がかかる。
(今日は野菜とかお肉とかも沢山買ってかなきゃ)
マールは気合いを入れて森の中から抜け出した。
「これ、そこの小僧」
よおしと二三歩歩いたところで突然背後から声をかけられ、マールの心臓が跳ねる。
恐る恐る振り返ると、そこには背中を丸めひょろっとした老婆がマールを厳しい目で睨んでいた。
「えっとその、なんでしょうか?」
まさか見られたのではと、ドキドキして返答を待つと
「何をこんな所をうろちょろしてるんじゃ。まさかそこの森に入ろうとしてるんじゃなかろうな?」
どうやら見られてはいないようだとマールは胸を撫で下ろす。
「い、いえ。オレはただその……散歩を」
「フンッ嘘をつけ、最近の若いもんは面白半分でこの森に近付きたがる。全く、森に入ったら瘴気に当てられ死ぬだけじゃて、おまけにいつ魔族が出るかもわからんのに」
(瘴気? あぁ邪気の事かな)
「それはその、危ないですね。えっと、おばあちゃんはどうしてここに?」
「ワシか? ワシは直ぐそこに住んでるただの老婆じゃ。ほれ、あそこにあるおんボロの家がそうじゃて、今は一人で住んどる」
確かにここから少し離れた所に、今にも崩れ落ちそうな木造の小さな家が建っていた。
(……まさかこんな所に人が住んでるなんて、しかも一人で)
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