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第三章

名は体を表す13

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――その頃。

ガタゴトガタゴトと、森の中を一台の荷馬車が走っていた。
道なき道を土埃をたたせながら進み。その荷台には灰色の髪に青い瞳の魔族の少年が乗っている。
いや正しくは《灰の魔族の子供》と言った方がいいのかも知れないが、この子供の見目はまるで少年のようだから今は少年と言う事にしよう。

荷馬車が音をたてるたび、少年の体も揺れ動いた。決して乗り心地がいいとは言えないその場所で、それでも少年は乗せて貰えた事に感謝する。
馬を走らせる男に「すみません。忙しいのに」と声をかけると、馬方うまかたは明るく笑う。

「なぁにマールの頼みだ。ちょっと寄り道するくらいなんも困りゃしないよ。それにいつも荷物を積むのを手伝って貰っているからな。その礼だと思ってくれ」
「有り難うおじさん。でもちゃんとお礼しますから」
「いいっていいってそんなもん」
「そうはいかな、わぁ!」

ガタンと一際大きく揺れ、マールは荷物に掴まった。

「おっとすまんねぇ。何しろ普段は人なんて乗せないもんでな。乗り心地は悪いがもうちょっとの辛抱だ我慢してくれよ」

そう言って快活に笑う。

「辛抱だなんて。確かにちょっとびっくりしたけど、オレ凄く助かりました。今日は荷物が多くなりそうだし、人間の土地の近くにだなんて、きっと断られると思ってたから」
「そういやなんでそんなとこに行くんだ?」
「お使いを頼まれたんです。オレじゃないとダメだから」
「……あぁさては例の赤ん坊だな?なんでも人間だって言うじゃないか。なるほどそれでお使いか、大変だな~お前さんも」
「え、いやそんな事は」
「おっと着いたぞ」

馬方うまかたが手綱を引くと馬が足踏みしながら止まり、マールは荷台から降りた。
少し遠いが確かにそこから民家が立ち並ぶのが見える。

「悪いなここまでで、何しろ道がないもんでなぁ。あまり近付き過ぎると人間達に勘づかれる恐れもあるし」

馬方うまかたはバツが悪そうに頭をかいた。マールはいいんですと首を振る。

「例え道があってもここまでで十分です。有り難うございました」
「魔族だとバレないよう気を付けていけよ」
「はい。あ、そうだここまでの」

片道分を支払おうとして、斜め掛けしていた鞄の中を探ると「だからいいって」と手を横に振る馬方うまかたに「よくないです」と真面目な顔をする。

「出来ればこれからも頼みたいし、お金に関するけじめはしっかりつけないと」
「ハッハッなるほどな。よし、それなら帰りも乗せた後で貰うとするよ」
「有り難うおじさん!」


マールは嬉しそうに言うと「いってきます!」と元気に走り出した。



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