魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第三章

名は体を表す08

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そんなイェンに青年はずいっと詰め寄った。

「けどお前はさっき《誰でも簡単に出来る》って言ったな。《道具があれば魔力が弱い魔族でも問題ない》って。てことは昨日のあの話は嘘か? それなら一般の魔族に道具でも支給して結界作らせてそれで子供育てられるように出来るじゃないか。あとハクイ様は本当にあの子の親じゃないんだろうなどうなんだ?」

正直に言うと、青年はこれまで《魔族は産まれたばかりの赤ん坊を森の中に捨ててしまうような血も涙もない種族》なのだと思っていた。
けれどここに来て、魔王達の様子にそうではないと理解はした。
理解はしたのだが……。

(俺が12の時、産まれたばかりのマールはあの森の泉に置き去りにされ一人で泣いてたんだぞ。なんにも知らずあんなとこで泣く事しか出来ない赤子に何が出来る、俺が気付かなかったら今頃アイツは……いつか《あの子達》の親を見付けたら一発おみまいしてやろうと思ってたんだ)

それが仕方がなかった事ではあると、青年は理解している。
何故なら魔族は魔族の子を育てられないのだ。産まれたばかりの魔族の赤ん坊は人間とさしてかわらない。一緒にいれば寧ろ自分達の邪気で我が子を殺してしまう。
そんな中 《聖なる泉》 に我が子を預ける事が唯一の方法であると古くから信じられて来たのだ。
それが最善であると信じて、それが正しいと信じて、それが当たり前であると疑わなかった。
そんな状態で、誰が間違いに気付けるだろうか、誰が疑念を抱くだろうか。

(わかってはいる。理解もしている。けれど誰でも結界が作れるってんなら話が違う。おまけにハクイ様は結界を扱えるらしいじゃないか)

「もしあの色白男が親なら今からあの小綺麗な顔をぶん殴りに」

「ちょっ待て待て待て待てまあーて! 語弊があるぞ! 誰でもとか問題ないなんて言ってねーよ! 《魔力が弱い者でもそれなりの道具さえあれば簡単に出来る》って言ったんだ」
「何処が違うんだよ」
「あーもう、とにかく落ち着けよ。赤ちゃんもアンタの剣幕に泣きそうだぞ」

イェンが眉間を押さえて指摘する。
確かに腕に抱いている赤ん坊が、口をへの字にして今にも泣きそうなのをぐっと堪えていた。

「ごめんなぁ怖かったよなぁ。でも大丈夫だ安心しろ。お前じゃなくてこの見た目は若いが実はかなりのおっちゃんなお兄ちゃんに怒ってるだけだからなぁ。決してお前じゃないよ」

よしよしと赤ん坊をあやしながら口にした言葉に、イェンは「おいコラ誰がおっちゃんだ」とつっこむ。

「僕はね。これでも結構若い方なんだけど」
「俺より長く生きてるだろうからおっちゃんだろ」
「人間の物差しで考えるなよ全く」

溜め息をつくイェンに、青年は視線だけでさっきの話の続きを促す。

「本当に無理なんだ。一般の魔族に結界は」
「でもお前も扱えるんだろう?」
「そりゃあ僕は一般的な魔族じゃないからさ」
「そうなのか?」

「そうだよ。まずアンタ勘違いしてるみたいだけど、魔力が弱い魔族ってのはイコール一般的な魔族って事じゃない。あくまで魔力が強い奴の中での魔力が弱いって意味で、一般的な魔族の魔力なんてそのうちに入らないんだよ。ほら人間だって霊能力者とか神の力がどうとか、嘘だか本当だが分からない人はともかく、一般的な人間が何かしらの媒介ばいかいを持ってたところで結界なんかはれないだろう?」
「……まぁ確かに普通は無理だ」
「だろ? それと同じだよ。だから道具を支給したところで無理なんだよ。僕だってまともに扱えてる訳じゃない。結界は高等魔術だ。今この国でまともに扱えるのは魔王さまやハクイ様を入れて《三人》だけだよ。その中でも魔王さまは特別だ。まぁだからこそ昨日みたいに魔力の無駄使いするんだけど」

「アホなんだな」
「でもいい魔王さまだよ」


そうこう話している間に目的地についたらしく、イェンは「ここだよ」と、ある部屋の前で立ち止まった。


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