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第三章
名は体を表す05
しおりを挟むその耳飾りは、廊下に出てからも揺れていた。
日の光が射し込む細長い廊下で、耳飾りが時折キラリと光る。
赤ん坊を抱き直して、青年は前方を歩く侍従について行く。
と言うのも朝食を終えたあと、直ぐに部屋を移ると言われたからだ。
なんでも新しい部屋の準備が整ったらしい。
廊下に出ても問題ないのかと聞けば、ここから新しい部屋まで条件付きの結界がはられていると言う。
つまりは青年と赤ん坊二人が通る時、一時的に結界が作動する仕組みらしい。
だがそれは一方通行のもので戻る事は出来ない。
そしてその効果は新しい部屋に二人が入ると全て失われる。
なんとも面倒な事をする、どうせなら城全体に結界をはってしまえばいいのにと青年が呟くと、イェンという侍従の男は言った。
「その場限りや条件付きの発動の方が魔力も消費しにくいし楽なんだよ。例え魔力の弱い者でもそれなりの道具さえあれば簡単に出来る。人間だって、例えば僕の祖国の人間は魔力はなくとも霊力とかで、お札っていう紙とかを媒介に結界を作る奴とかいるんだけど、それと同じ。まぁ今回は僕が作った結界だから道具なんか使っちゃいないけどね。だいいち城全体にはってみろ。この結界は邪気の影響を受けないようにするもので、僕ら魔族は皆邪気を持ってるんだぜ? そっちは良くても僕達魔族に都合が悪いんじゃ話にならない」
そういえば、確かにちょっと息苦しいとか言っていたと青年は思い出す。
「それにあの心配性の魔王さまだぞ? どんな強力な結界をはるか考えただけで恐ろしい」
あぁ怖い怖いと冗談じみた仕草で身を抱き締め、そのまま廊下へと出ていくイェンに、青年も赤ん坊を抱いて魔王の部屋から出たのだった。
(昨日は暗くてわからなかったけど)
王が住むにしては殺風景な内装だなと思う。
灰色の冷たい壁に、等間隔で取り付けられた窓。
その寂しさを補うかのように敷かれた赤い絨毯が、ずっと奥まで続いている。
前を行くイェンの腰まである太いみつあみが、歩く度揺れ、まるで尻尾のようだと無意識に手を伸ばしたところで、気付いたイェンに「なに?」と聞かれた。
「……あーそういえば女の魔族っていないの?」
特に何も言う事がなく、たまたま目に入ったイェンの服の色を見て、魔族の女は翠の瞳がどうのと、魔王が言っていた事を思い出した。
だが、ここに来てから一度もそれっぽい姿をみていない。
いくら子育て経験が無いとは言え、やはり女性が手伝ってくれた方がいいだろう。
何よりこの赤ん坊は女の子で、年頃になれば男ではどうしようもない問題も出てくる。
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