魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
41 / 168
第二章

躓く石も縁の端28

しおりを挟む

すると青年は、僅かに瞳を見開いて魔王の顔をまじまじと見詰める。

「おかしい」
「ん? どうした?」
「確かに悪くはないけど、好みじゃないはずなんだよなー、俺はさぁ男ならもっとこう、でも今の顔は結構好きかも」
「……? ……意味がわからんのだが」
「そのまんまの意味ですよ」

青年は灯りを消した。タオルを魔王に押し付けて、寝台に上がると魔王と赤ん坊を越え、壁際の方に潜り込む。

「まさかベッドまで一緒だとは思わなかったなぁ」
「一度川の字と言うのをやってみたくてな。何処かの人間の家族はそうやって寝ると聞いた」
「そんなん他の誰かとやればいーじゃないですか」
「いやそうは言っても、子もいないし、二人以上で夜を共に過ごす事などないからな。私にそんな趣味はない」
「…………誰もそんな事まで聞いてません」

青年はなんとも言えない顔で言うと、体を赤ん坊の方へと捻った。
昼間あんなに泣いていた赤ん坊は今は不思議な程、静かに寝ている。

「……起きないな」

魔王がぽつりと言う。

「……泣いて喚いて寝る暇もなかった」
「あぁ夜泣きですか。赤ん坊ならよくある事です。大変でしたね」
「…………まさか、死んでいるんじゃないだろうな」

魔王は呼吸を確かめようと赤ん坊の口許で耳を済ます。

「えぇ? やめて下さいよ。そんな縁起でもない」

そう言いながらも青年は赤ん坊の心臓辺りに軽く耳を押し付ける。

「あーほら、やっぱり大丈夫ですよ」
「……そのようだな」

二人でほっと胸を撫で下ろし目が合う、思わず笑った。

「魔王さまって本当、変だよね」
「お前もよほど、変だと思うぞ」

相手が何を「変」だと言っているのか、思っていた魔王像と違った。よく知る人間の反応と違う。
そんなところだろうと、二人はその事には特に何も触れず、寝台に身体を預け直す。

「魔王さま。寝相は悪くないですよね? 朝起きたらこの子が潰れていた。なんて冗談でも嫌ですよ」
「ふん、そう言うお前の方こそ問題ないのだろうな?」
「大丈夫です」

「んあー!」

ビクッと二人の肩が揺れる。
寝ているはずの赤ん坊を恐る恐る見ると。
赤ん坊は何やらむにゃむにゃと呟き、また静かに寝息をたて始めた。

「なんだ、寝言か」
「ですね」
「寝るか」
「あ、そうだ」
「まだ何かあるのか?」

寝ようと瞳を閉じかけた魔王が、まだ何かあるのかと眉間に皺を寄せる。

「明日この子に名前をつけてあげましょう。いつまでも《あれそれ》じゃ可哀想ですよ」
「……そうだな」

魔王と青年はお互いの間で眠る可愛らしい小さな女の子に暖かな視線を向ける。


「おやすみ。小さなレディー」
「よい夢を」


ちゅっとおでこと頬に口付けて、魔王と青年もようやく瞳を閉じた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

処理中です...