魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第二章

躓く石も縁の端25

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「……寝てる」

心配して髪を乾かすのもおざなりに部屋へと戻ってみれば、意外にもふかふかの寝台の上ですやすやと寝息をたてる赤ん坊と魔王の姿が青年の目に入った。

「いや、まぁ。平和でよかった。うん」

くすんだ黄金色こがねいろのような髪を、片手に持つタオルでわしゃわしゃと拭く。
与えられた寝間着は多少大きめで侍従は直ぐ新しい物を用意しようとした。それを断って帰した為、今ここで起きているのは青年だけ。
部屋の前に警備の者もいない、つまり青年を見張る者は誰一人いないのだ。

『そりゃお前、私のそばが一番安全だからだろう』

ここに移動する時、魔王は当たり前のようにそう言って、更にこう続けた。

『私は誰よりも、強いのだから』

そう言う問題じゃないだろうと思いながら、まぁ面白いなとついて来た。

青年は忍び足で歩く。
拳を軽く握りしめ、寝台に腕と顔を預けて寝ている広い背中に振り下ろす。

パシ――っ

「……別に、殴られてやっても良かったんだが」

困ったようにその紅い瞳が青年を見た。

「やっぱり、狸寝入りだったんだ」
「いや違う、お前が近付くまでは確かに寝ていた」
「じゃあそのまま殴られてくれれば良かったじゃないですか」

振り下ろした青年の拳は、男のガッシリとした掌の中だった。

「ハハ、すまん。さすがに一日に二度も殴られるのはなぁ。たく、お前は何をするかわからんな」

そう言って苦笑する。

「俺の考えが間違ってなければ魔王さまって王ですよね? 絶対この状況おかしいですよ。そのうちこんな風に襲われますよ」
「ふむ。私を襲おうなどと思う奴はお前くらいだと思うが」

魔王は片手で捕らえた青年の拳を軽く握る。

「……俺達を安全なとこに置きたいなら、ここやさっきの部屋みたいに結界はってガッツリ護衛でもつければいいだけじゃないですか」
「私といるのがそんなに不服か?」
「いえいえ、ただ変な状況が受け入れ難いと言うか他に何か企んでるんじゃないかと言う疑念があると言うか」
「そうか。……他の者に任せていてはおちおち寝てもいられん。それならばそばに置いておいた方が何かと都合がいい。まぁ明日あすには手筈が整う。今晩だけ勘弁してくれないか」
「とかなんとか言って、俺に夜の相手でもしろってんじゃあないでしょうね。赤ん坊がいるのでお断りします」
「な、なんだその発想は? と言うかいなければ良いのか? いったいどんな生活をしてきたらそんな……もっと自分を大事にしろ」
「冗談ですよ」
「何処までが」
「さぁてね」

青年は何事もなかったように拳を引っ込め、ふと、眠る赤ん坊が目に入った。
寝台に取り付けられた天蓋の織物のおおいを掴み。自分達と赤ん坊とを隔てるように開いていたおおいを閉め、そして魔王の胸ぐらを掴む。

「ところで魔王さま。ものすご~く不本意なんですけど、そろそろ限界です」

ふっと気を緩めた青年の顔色が、明らかに悪くなった。



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