魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

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第二章

躓く石も縁の端23

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 ――ポチャン、ポチャン

立ち込めた湯気が、白を貴重とした内装の天井にのぼり、水滴が湯船に落ちて音をたてる。
その湯船の中に、肩までしっかりと浸かった青年がほっと一息ついていた。
湯の中で青年が手足を伸ばす。
洗い場を見てもそんなに広いとは言えないが、そもそも部屋に備え付けの風呂がある事が珍しい。
まぁ普段使っているのが、多分あの魔王一人ぐらいなのだろうから、これぐらいで事足りるのだろう。

(あんまり広くても落ち着かないしな。うん)

一人そんな事を思って、それにしてもと青年は溜め息をつく。

「侍従振り切るの大変だった」

あのあと確かに運ばれて来た軽食を食べ終え、魔王の侍従が風呂を用意してくれたのは有り難いが、風呂の中まで世話をされたいとは青年は思わない。

「まぁわかるよ。それが仕事だしね。魔王に言われたんだろうしね。王宮とかってそんなもんよね。でもね俺は自分の事は自分でしたいたちなのよ。自分で」

その侍従は今、風呂の外で青年が上がってくるのを大人しく待っているだろう。
別に濡れた体を拭いて、用意された服を着るくらい青年一人で出来る。
しかし、なんとか風呂の中まで来る事は阻止出来たが、他は侍従が引き下がらなかったのだ。
いや、引き下がれないのだろう。それが彼の務めなのだから。
それを一応は青年も理解している。それで仕方なく諦めることにした。

(それにしてもまさかこんな事になるとは)

湯気で白く濁る天井を見詰めぼんやりと思う。
半分夢を見ているのではないかと思ったが、今までの経験上夢でないのはわかっていた。
急に姿を消した青年に、きっと周りは今頃驚いている事だろう。

(……まぁそこはなんとかしてるだろ)

誘拐だの人質だの命を狙われるような事は存分に経験済みだ。
でもまぁ最近はめっきりそんな事もなかったが、それでもこんなに奇妙な理由で、更にここまで待遇がいいのは初めてだ。
命を狙われている訳でもない。
それに今まで青年が信じていた常識も覆された。
青年は暫くここにいて、魔族を知るべきだと考えている。

「って言ってもあまり長くはいられないしなぁ」

ぶくぶくと湯に頭までも沈めて、またゆっくり顔を出す。


「……つーか、魔王一人に赤ん坊任せてる今の状況が不安だわ。さっさと上がろう」



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