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第二章
躓く石も縁の端22
しおりを挟む「わたくし達はそれぞれ、自分の親さえわからない身ではありますが、ある意味で、魔族と言う大きなくくりの家族です。誰かが誰かの親で、誰かが誰かの兄弟かも知れないのですから、そんな家族を、少なくともわたくしは信じていますよ」
「ハクイ様」
マールの心にハクイの言葉がじーんと響く。
「まぁ。中にはどうしようもない、野蛮な輩も確かにいますがね」
「はっハクイ様?」
(いっ今の感動は?)
「でも、少なくともお前は違うでしょう?」
そう言うと、ハクイはまた歩き出す。
「……」
その背中をマールは黙って見詰めた。
何故だろうか、マールの瞳にはその後ろ姿がキラキラ光ってみえる。
腕でごしごしと目をこすって見てもやっぱりそれは変わらない。
暫しそうして、我に返るとマールはその背中を追いかけた。
「あ、あの、ハクイ様。次またオレがあちらに行く時は、手だけでいいので結界をはってくれませんか?」
「またどうして?」
「今日お釣りを受け取る時、手が触れて、お店の人が目眩で倒れそうになったから、だから」
マールは自分の両の掌を見詰め、悲しそうに言う。
ちょっと触れただけなのだ。ほんのちょっと。それでも店員の女性が具合が悪くなるには十分だったらしい。
「そうですか。では次からはそうしましょう」
「あ、有り難うございます」
「いいえ、礼を言われる程の事ではありません」
「で、でも、やっぱり、有り難うございます」
もう一度お礼をするその姿に、ハクイはクスリと笑った。
「ほら、やっぱりお前は優しい良い子ですよ」
そんな事を言われ、照れくささからマールの顔がカァと熱くなる。
「何も照れる必要はないでしょう。寧ろ誇りなさい。それはお前の長所だ。でもまぁその可愛げも、お前のいいところですね。大事になさい」
「えっと、はい」
正直どう大事にすればいいのか分からなかったが、マールは素直に返事をする。
「そう言えば、風呂の支度はいいんですか?」
ハクイの言葉に、マールの顔色が変わる。
マールはここに来てまだ日が浅い、つまりは一番の下っぱだった。
普段ならもうとっくの昔に、マールのような下っぱは皆、城で働く者達が使う風呂場を掃除し、準備する事になっている。
ちなみに魔王やハクイのように位の高い者には別に用意されている。
「そ、そうだった! ハクイ様ごめんなさいオレ行きます!」
慌てて走り出すマールだったが「あ!」と何かを思いだし立ち止まる。
「あの、ハクイ様。あともう一つだけお願いが――」
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