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第二章
躓く石も縁の端16
しおりを挟む「……なんです?」
「いい子じゃないか」
「知ってます」
マールは赤ん坊に駆け寄ると、抱いていた青年に哺乳瓶を渡す。
そして二人は何気無く魔王とハクイに背を向けた。
「お、お兄ちゃん、もう大丈夫なの?」
「お前それ、言い慣れないなら他の呼び方考えろ」
「えぇそんな事言われてもなんて呼んだら?」
「なんでもいいぞケインでもミゼットでも、だいたい使った事あるからな、問題なく反応出来るなんでもござれだ」
「逆に困るよ」
「まぁいい。……記憶が曖昧だ。いったい何があった、教えろ」
「オレに手紙を頼んだあと、急に倒れたんだ。邪気にやられたんだよ。だから言ったのに、そのあと直ぐにハクイ様たちが来て、魔王さまがお兄ちゃんの体から、邪気を吸い出した。そのあとは貴方も知ってるとおり……本当になんともない?」
マールは心配そうに青年をみる。
「……あぁなんともないさ」
青年は安心させるように穏やかに微笑む。
「それにしてもそうか。だからあんな事を、知らないから無駄に取り乱してしまったじゃないか」
「魔王さまに助けられたんだから、ちゃんとお礼言ってよね」
「あーわかってる。わかってるっと」
余所見をしていたせいで、哺乳瓶の先の飲み口が、赤ん坊の口から離れてしまった。
それをまた口許に戻すと赤ん坊の表情が険しくなり、べーと口からミルクを吐き出す。
「おいおい」
青年は赤ん坊の背を立たせると背中を擦り、マールが差し出したタオルで赤ん坊の口許を拭った。
「も、戻したの? 病気?」
「いや、多分飲みなれないんだ。ここ数日花の蜜だったんだ。口にあわなくてもおかしくない。こればっかりは慣れて貰うしかないな」
「え? 花の蜜?」
マールは目を丸くする。
「そうさ、どう思う?」
「今すぐ医者に」
「そうなるよなぁ」
「だ、大丈夫なの?」
「らしいぞ? 不安でしかないが強ち嘘でもなさそうだ。今は致し方な」
「なんだ?飲まないのか?」
急にぬっと青年とマールの間に魔王の顔が割り込んだ。
「うわ!」「わわ!」
「そう驚かんでもいいだろう? で、飲まないのか?」
「いや、驚きますよ! ……なんか飲み慣れないみたいで」
「そうか。だが、急いても仕方ない。腹が減って仕方無くなれば自然と飲むようになるだろう」
「そう、願います」
「ところでこれは何で出来ているんだ?」
魔王はまじまじと青年がもつ哺乳瓶の中を眺める。
「あぁ、ヤギの乳です。ヤギの乳を粉末状にして、お湯で溶かして飲めるようにしたんですよ」
「ほぉヤギの乳を粉末状にか……ってヤギの乳!?」
今度は魔王が目を丸くした。
「まぁ知らないですよね。ヤギの乳は母乳に一番近くて、赤ちゃんのお腹に優しいんですよ」
「ほ、本当か?」
「あ、間違っても牛の乳をあげちゃあダメですよ」
「そうなのか?」
「俺も詳しくは知らないけど、牛の乳にはたんぱく質やミネラルが多く含まれていて、過剰に飲むと肝臓に負担がかかるんですって、脂肪球も大きいんで消化にもよくない、あと鉄分の吸収を抑えるんだったかな? 糖分も少ないんで赤ちゃんの成長によくないんですよ」
「はーそうなのか」
「母乳が出なくて困った農婦がね。赤ん坊にヤギ乳飲ませてるの見て、思い付いたらしいですよ。この粉ミルク」
青年は赤ん坊を見つめる
「でも、結局捨てられる子が出てるんじゃあ、あまり意味はなかったな」
青年は悲しそうな顔で続けた。
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