魔王と王の育児日記。（下書き）

第二章

躓く石も縁の端12

　そのあまりの苦しさに、青年は意識を取り戻した。
　うっすらと瞼を開けると、自分をのぞきこむ端正な男の顔が

（え？）

「良かった気が付いたか」

（ん？）

　心配そうに見詰められるのはわかるが、何故こうも顔が近いのか、そして何故自分はこの男の膝に身を預け、この男の腕の中にいるのかと目を白黒させる。

「あ、俺まだ深層心理の中をさ迷っているのか」
「まだたりなかったか」

　魔王の手が青年の顎を持ち上げ……持ち上げ？

（う、そ、だ、ろ！！？？）

「っん、んん～！」


（うわ～コイツ何して何して何して！！）


　魔王が青年の唇を奪ったと思ったら、驚いている間に魔王の舌が口の中に割り込む。
　すると唇と舌が異常に痺れた。
体の底から何かがせりあがり、それを魔王の舌が絡めとっては飲み込む。

「っんう！？」

　電流が走ったような痺れが青年の全身を襲い。このままでは耐えきれないと魔王の胸を叩くがやめる気配がない。

（こんのお～～！！）

「フザケンナアアアアアアア！！！！」
「ぐぁ！？」

　ドゴッン！　といい感じの鈍い音をさせ、青年お得意のボディーブローが魔王の腹を、おもいっきり打ち上げた。

「はぁはぁはぁはぁはぁ、っいったい何してくれてんだ！！」
「っっそれはこっちの台詞だ！　いきなり何をする！？　痛いだろう！」

　本当に痛そうに涙目で腹をおさえる魔王。だがそんな姿を見ても青年は罪悪感を感じている暇はなかった。

「色々痛いのはこっちだっつーの！　まだなんかビリビリ痺れるし！　この変態！」
「……そうかやはり痺れるか、だからあまりしたくなかったのだが」
「はぁ？」

　落ちついてそんな事を呟く魔王を見て、青年も少し落ち着きを取り戻す。
　すると赤ん坊の泣き声が聞こえ、慌てて走った。

「わ～ごめんごめん！　大きい声出しで悪かったビックリしたよな～！　よしよし大丈夫大丈夫だよ～」

　赤ん坊を抱き上げ必死にあやす。

　そんな青年を腹をおさえながらホッと見守る魔王。

「魔王さま。そろそろ中に入れてくれませんか？」

見ると、ハクイが出入り口の前で立ち往生していた。

「全く。あれほど誰も入れないくらいの結界はやめて下さいと言ったのに」
「はは、すまんすまん。今入れてやる」

魔王はよろよろ歩くと、部屋の出入り口に手を翳す。

「ところで、あの人間はもう大丈夫なのですか？」

「邪気をあらかた吸い出した。あれで元気でないのなら、私は何故殴られたのか知りたい」