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第二章
躓く石も縁の端11
しおりを挟む「マール! いったいどうしたんです!」
突如廊下に現れたハクイは、部屋の出入り口の前で尻を付き、固まって動けなくなっているマールを目にとめ駆け寄った。
「はっハクイさま。に、人間が死んじゃ、た、助け」
「なんですって!?」
震えながらマールは焦げた手で指を差す。その部屋の中を見ると、魔王があの人間を抱き起こすところだった。
その奥からは赤ん坊の泣き声までも聞こえてくる。
「おいコラお前、さては結界の外に出たな?」
「へへ」
「へへ、じゃない。あれほど出るなと言ったのに、お前と言う奴は、いや見張りもつけずにここを離れた私の落ち度か……おい、おい! しっかりしろ!」
すっかり青ざめた顔で青年が気を失う。その頬を魔王は何度かはたく 。
だが、青年の体は急激に体温を失っていき、冷たくなるばかりだ。
「……邪気が全身にまわっている、これでは結界の中での自然回復など……」
魔王は致し方ないと、意を決して青年の顔を持ち上げた。
・
・
・
・
・
(ここは、何処……だ?)
青年は自分は深い深い海の底にいるのではないかと思った。
頭から体がずぶずぶと海の水を掻き分けるように、暗闇のなかへと沈んで行く。
(死ぬのか、俺は……)
死とはもっと痛く、苦しいものだと思っていたが、自分の死はなんともあっけない。
そして妙な所で死んだものだと青年は皮肉に笑む。
(この《わたし》が、魔王の城の一室で死ぬなど……)
自分が死んだあとの事を考え、きっと取り返しのつかない事になるだろうと、そうなったら、やはりよくないと口を開く。
海水が青年の口に入り込み、言葉にならない言葉を叫ぶ。
「ここで、死ぬ訳にはいかない!」
海底へ沈み続けるなか、目を見開き、暗闇の中、落ちてきた方へと手を伸ばす。
「《わたし》はここで死んではいけない! まだやらねばならない事が沢山ある! やるべき事が! 変えなければならない事が! 知らなければならない事が! 《わたし》にしか出来ない事が沢山!! 《わたし》は死なない!!」
その瞬間、全身に電流が走った。
特に唇や舌の辺りが痺れ、体の中に入りこんだ何かを吸い上げられるような感覚に、表現しがたい痺れが手足を襲う。
「ふっんっんぅ!」
(くっ苦しい! なんだ!? 何がおこってるんだ!?)
それはどんどん激しくなり、我慢出来ず涙が溢れる。
(いっ息が! このままじゃ本当に、死ぬ……!!)
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