魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
20 / 168
第二章

躓く石も縁の端07

しおりを挟む


青年の顔色は見ていられないくらい青く、マールは焦った。
すぐに邪気のせいだと分かったからだ。
自分よりもずっと大きい大人の男の体を下から支え、なんとか結界の部屋へと押し戻そうとする。

「だから、言ったのに!しっかりして、よ!もう!」

必死に押し戻そうと足と腕とを踏ん張るが、元々14歳にしては小柄で華奢な事もあり、更に既に気を失いかけて力の入っていない体は余計に重かった。

「このおお!」

声をあげ一気に押し上げる。

「入れえええ!!」

マールは自分の肌が結界に触れるのも構わず、青年の体を部屋の中に押し込む。

「っい!」

ジュウウッと音をたて、マールの手が焼けた。

(あともうちょっと、あともうちょっとで突き飛ばせば中に入る!)

ジュウウとなおも音をたて、こげた匂いが鼻につく。

「行けええええ!」

マールは思いっきり青年の体を突き飛ばした。
青年は部屋の中へ仰向けに倒れて行き、床にぶつかる衝撃で頭がバウンドする。
それと同時に赤ん坊が急に大きな声で泣き始めた。

「はぁはぁ」

マールの叫び声と大きな音に驚いて起きたのだ。

「…………どうしよ。……ねぇ、ねぇってば、起きてよ」

あーあー泣き叫ぶ赤ん坊に、目の前の結界の向こうではぐったりと倒れた青年。

マールにとって、彼は時に兄のように時に父のように、今まで自分を見守ってきてくれた人なのだ。

それが今、ピクリとも動かない。

マールの脳裏に最悪の事態が過り全身が凍った。

(誰か、誰か呼ばなきゃ)

頭ではそう思うのに、体が言う事をきかない。

マールの耳にはただ、赤ん坊の泣き叫ぶ声が響き、目の前の光景を凝視する。

体は動かない癖に涙だけが瞳から徐々に溢れ出した。

「は、ハ」


マールが震える唇で必死に何か言おうとしている時、青年はボーと霞む視界の中、天井を見上げていた。

(ヤベーヤベーよ)

青年の耳にも部屋中に響く赤ん坊の泣き声が届いていた。
見えはしないが、きっとマールも震え、泣いている。
青年は魔王に何度も出るなと言われた事を思い出した。


『出るな。死んでしまう』


(ハハ、俺、バッカじゃねーの)


『信用するぞ』


今更後悔したって遅かった。
マールだって、何度も止めてくれていた。


(あぁ、泣くなよ。もう泣くなよ二人とも、泣かないでくれ)


青年の意識はどんどん遠退き、頭の中が真っ白に色を変えていく。
その中で、低音の男の声が響いた。


『何かあったら呼べ』


「ま、おうさ……ま」
「ハクイさまあああああ!」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。

夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。 キャラクター シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目 ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm 頭…中年 盗賊団のトップ 188cm ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義

大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。 帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか? 国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

処理中です...