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第二章
躓く石も縁の端07
しおりを挟む青年の顔色は見ていられないくらい青く、マールは焦った。
すぐに邪気のせいだと分かったからだ。
自分よりもずっと大きい大人の男の体を下から支え、なんとか結界の部屋へと押し戻そうとする。
「だから、言ったのに!しっかりして、よ!もう!」
必死に押し戻そうと足と腕とを踏ん張るが、元々14歳にしては小柄で華奢な事もあり、更に既に気を失いかけて力の入っていない体は余計に重かった。
「このおお!」
声をあげ一気に押し上げる。
「入れえええ!!」
マールは自分の肌が結界に触れるのも構わず、青年の体を部屋の中に押し込む。
「っい!」
ジュウウッと音をたて、マールの手が焼けた。
(あともうちょっと、あともうちょっとで突き飛ばせば中に入る!)
ジュウウとなおも音をたて、こげた匂いが鼻につく。
「行けええええ!」
マールは思いっきり青年の体を突き飛ばした。
青年は部屋の中へ仰向けに倒れて行き、床にぶつかる衝撃で頭がバウンドする。
それと同時に赤ん坊が急に大きな声で泣き始めた。
「はぁはぁ」
マールの叫び声と大きな音に驚いて起きたのだ。
「…………どうしよ。……ねぇ、ねぇってば、起きてよ」
あーあー泣き叫ぶ赤ん坊に、目の前の結界の向こうではぐったりと倒れた青年。
マールにとって、彼は時に兄のように時に父のように、今まで自分を見守ってきてくれた人なのだ。
それが今、ピクリとも動かない。
マールの脳裏に最悪の事態が過り全身が凍った。
(誰か、誰か呼ばなきゃ)
頭ではそう思うのに、体が言う事をきかない。
マールの耳にはただ、赤ん坊の泣き叫ぶ声が響き、目の前の光景を凝視する。
体は動かない癖に涙だけが瞳から徐々に溢れ出した。
「は、ハ」
マールが震える唇で必死に何か言おうとしている時、青年はボーと霞む視界の中、天井を見上げていた。
(ヤベーヤベーよ)
青年の耳にも部屋中に響く赤ん坊の泣き声が届いていた。
見えはしないが、きっとマールも震え、泣いている。
青年は魔王に何度も出るなと言われた事を思い出した。
『出るな。死んでしまう』
(ハハ、俺、バッカじゃねーの)
『信用するぞ』
今更後悔したって遅かった。
マールだって、何度も止めてくれていた。
(あぁ、泣くなよ。もう泣くなよ二人とも、泣かないでくれ)
青年の意識はどんどん遠退き、頭の中が真っ白に色を変えていく。
その中で、低音の男の声が響いた。
『何かあったら呼べ』
「ま、おうさ……ま」
「ハクイさまあああああ!」
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