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第二章
躓く石も縁の端05
しおりを挟む「今デカイ声で何を言おうとした? このよく響く廊下で」
青年が拳を片手に冷や汗をたらす。
「えーとえーと、おうじゃなくて、フィでもなくて、お、お兄ちゃんと」
マールは荷物を落とし、お腹をおさえ、縮こまりながらなんとかそれだけ言う。
その言葉に青年は胡散臭そうに眉を潜めた。
「ホントかぁ~?」
「い、いひゃい」
「大丈夫だろ。魔族なんだから」
「その根拠は何処から……」
「ほんの数時間前にハクイって魔族から教えて貰った」
「まさかこんなところでオレがとばっちりを受けるなんて」
「うう、酷いよ」と痛がって唸るマールに、さすがの青年も申し訳なくなった。
「悪い悪い、冗談だ。思わず焦って手が出た。本当にごめん。だ、大丈夫か?」
そう言う青年にマールは上目遣いでじとっと見上げる。
「それより大丈夫?」
「何が?」
「腕、今オレを殴る時結界から出たでしょ?」
「あ、あぁそういえばってお前、結界はってあるのわかるの?」
「うん、だって」
マールは自分と青年の間の出入り口を指差す。
「オレでも結界が見えるくらいはってあるもん」
「ん? え、これ?」
よく見ると確かに紫色のオーラみたいな何かがゆらゆらしている。
「いやまぁ多分腕は大丈夫だ。ちょっとピリピリするけど」
「え!?」
心配そうに青年の腕を見てオロオロしだすマールに、青年はそんな事より、と真面目な顔をした。かと思うといきなりドパッと涙を流す。
それに驚いて更にマールはオロオロする。
「あぁマール。お前ちゃんと生きていたんだな。良かった本当に良かった。元気でやっているかずぅっと心配してたんだ。あぁ頼む近くに寄ってくれ、お前をしっかり抱き締めたい」
そう言って腕を広げる青年に、マールは困ってしまう。
と言うか、これがさっき自分に一発入れて来た人間の反応とは思えない。
「えぇ無理だよ。この結界、強すぎて触れたらオレじゃあ丸焦げになっちゃう」
そう言って結界から少し距離をとる。
「そうか、じゃあ仕方ないな。俺がそっち行くわ」
「ええ!? ダメだよ! わっ!」
青年はマールの制止も聞かずに結界から身を乗り出すと、マールをしっかりと自分の腕に抱き締めた。
「ちょっ結界出てる出てる!」
「ちょっとだけなら大丈夫大丈夫。それよりマール、いきなりいなくなって本当に驚いたんだぞ? 出て行くのは仕方無い。けどな、あんなにその時が来たら置き手紙を残すなり何かしろって言ったのに、どうしてお前達はいつも何も言わずに行ってしまうんだ」
「……ごめん」
すすり泣く青年に、マールは腕を回してギュッと抱き締め返す。
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