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第一章
藁にもすがる12 end.
しおりを挟む龍仙が出て行く姿を見送り、さてととくるりと回ると青年は赤ん坊に駆け寄る。
「あっ起きてんじゃんお前~」
赤ん坊はいつの間にか目を覚まし、指をしゃぶっている。
くりくりとした真ん丸のお目めで青年を不思議そうに見上げるもんだから、青年の顔が自然とへにゃりと緩んで、思わず抱き上げた。
「なんともなくて良かったな~。お腹空いただろう? 大丈夫今にお腹いっぱいにしてやるからな! 心配いらないぞ!」
そう言って微笑む姿に、少し離れた場所から成り行きを見守っていた四人の魔族がホッとする。
そしてコソコソと
「この様子なら」
「大丈夫じゃない?」
「こんな弱い者を捨てる人間なんかに任せるなんてと思ったが」
「大丈夫だろう?」
「「「「よし!」」」」
四人は互いに目を合わせて頷くと、魔王を向いた。
「魔王さますみません。私達はその……」
「ん?あぁ、そうだな。今日まで休む暇もなくお前達も疲れたであろう。ここは心配するなしっかり休んで、また各々の仕事にせいをだしてくれ」
「あ、有り難うございます」
「それでは」
「すみません失礼致します」
「じゃあね赤ちゃんまたね~」
四人はすっかり疲れた様子で部屋を出ていく。
それもそのはず、何しろここ三日ほど、ほぼ寝ないで赤ん坊の面倒をみたり、人間や赤ん坊について調べたりと日夜走り回っていたのだ。
そのくたびれた背中に、魔王と青年は思わず(お、お疲れさま)と心の中で呟いた。
(本当に意外だな。なんか、魔族っぽくない)
とは言え青年が言う魔族っぽいとは、人間達が思うただの想像でしかない訳だが。
風習や常識、生まれ持った能力や特徴の違いから色々つっこみたい事は山程あるが、基本魔族というのは悪い奴ではないのかも知れない。
「魔王さま」
青年が声をかけると魔王は振り向いた。
高級そうな光沢のある黒いマントを翻し、おごそかな雰囲気を漂わせるその姿はやはり魔王。
その癖して顔がいいから腹が立つ、元からの目付きの鋭さ故に何処か傲慢そうにだってみえる。
だけど……
「魔王って本当は角がないんですね。あると思ってた」
「勿論あるぞ。だが出しっぱなしは危ないだろう? 結構邪魔だしな。それに本来の姿は人間のお前達は怖がる。あっ爪も切ったぞ! 初め長いまま触れて頬が少し切れてしまったからな。あれは驚いた」
中身はそうでもないらしい。
思わず吹き出して笑う青年に魔王は怪訝な顔をする。
「笑う事ないだろう」
「ふふ、だって……魔王さま俺決めましたよ。この子俺に任せて下さい」
「そうか!」
こうして魔族と人間の子育てが始まったのだった。
―― 藁にもすがる。 end. ――
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