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第一章
藁にもすがる09
しおりを挟む赤ん坊をクッションの上に寝かせ、急いで部屋から出て行こうとする青年を魔王は慌てて自らの腕の中に捕らえ、引き止めた。
青年はジタバタと無理にでも出て行こうとするが、体格差のせいで腕の中から抜け出す事が出来ない。
「待て待て待て待て! 部屋の外、城の中はもちろん、人間の領土までずっと邪気が充満している。それもかなりの距離だ。出たら人間のお前なぞ死んでしまうぞ」
「なら結界お願いしますよ」
「それは無理だ。今日はちょっと魔力を使い過ぎて……」
「なんだよそれ。頼りな」
「うっ」
「バカみたいに結界を何重にもはっては解いてを繰り返すからです」
ハクイに追いうちをかけられて魔王は言葉もない。てかこんな情けなくてよく魔王やってこれたなおい。
「なら誰でもいいから今すぐ買って来て下さい。お店の人に聞けばわかりますから」
「わかりました。人の里に入り込めそうな者がいますので、その者にあとで頼みましょう」
「今すぐ!」
「え、ええ分かりました」
青年の迫力に、これは只事ではないとようやく気付いたハクイは急いで部下に頼みに出て行き、青年は「お医者様はいませんか?」と魔王に聞く。
「医者か?」
「この子顔色が悪い、三日もろくな生活していないんだ、いやもしかしたら、捨てられる前から……一度診て貰わなきゃ。本当は人間の医者がいいんだろうけど、連れて行けないんじゃ仕方ないし」
「……多分お前が言う医者とはちょっと違うかもしれないが、それっぽいのなら《これ》を定期的に診て貰っているが」
「それでいい、今すぐ呼んでくれ。……ところで」
青年は自分の腰にしっかりと回された腕を軽くはたいた。
「いい加減離してくれませんかね」
魔王はハッとして腕を離そうとしたが、何を思ったのか離すのを止め、いっそうきつく抱きしめた。
青年は冷たい目でじと~と魔王を睨む。
「……ちょっと、だから、離して下さいって」
「離した瞬間出て行くんじゃないだろうな?」
「行く訳ないでしょう。まだ死ぬ気はないですよ」
「……本当だな?」
「本当ですってば」
「本当に本当だな?」
「本当です」
「嘘じゃ」「しつっこいなぁ! 本当だって言ってんですよ!」
互いに一歩も引かず睨みあう。
暫くして、魔王がパッと腕を離した。
そして傍に控えていた者に静かに命令する。
「今すぐ《龍仙》の奴を呼んで来い」
すると「はっ」と返事をし直ぐに姿を消した。
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