魔王と王の育児日記。(下書き)

花より団子よりもお茶が好き。

文字の大きさ
上 下
10 / 168
第一章

藁にもすがる09

しおりを挟む


赤ん坊をクッションの上に寝かせ、急いで部屋から出て行こうとする青年を魔王は慌てて自らの腕の中に捕らえ、引き止めた。
青年はジタバタと無理にでも出て行こうとするが、体格差のせいで腕の中から抜け出す事が出来ない。

「待て待て待て待て! 部屋の外、城の中はもちろん、人間の領土までずっと邪気が充満している。それもかなりの距離だ。出たら人間のお前なぞ死んでしまうぞ」
「なら結界お願いしますよ」
「それは無理だ。今日はちょっと魔力を使い過ぎて……」
「なんだよそれ。頼りな」
「うっ」
「バカみたいに結界を何重にもはっては解いてを繰り返すからです」

ハクイに追いうちをかけられて魔王は言葉もない。てかこんな情けなくてよく魔王やってこれたなおい。

「なら誰でもいいから今すぐ買って来て下さい。お店の人に聞けばわかりますから」
「わかりました。人の里に入り込めそうな者がいますので、その者にあとで頼みましょう」
「今すぐ!」
「え、ええ分かりました」

青年の迫力に、これは只事ではないとようやく気付いたハクイは急いで部下に頼みに出て行き、青年は「お医者様はいませんか?」と魔王に聞く。

「医者か?」
「この子顔色が悪い、三日もろくな生活していないんだ、いやもしかしたら、捨てられる前から……一度診て貰わなきゃ。本当は人間の医者がいいんだろうけど、連れて行けないんじゃ仕方ないし」
「……多分お前が言う医者とはちょっと違うかもしれないが、それっぽいのなら《これ》を定期的に診て貰っているが」
「それでいい、今すぐ呼んでくれ。……ところで」

青年は自分の腰にしっかりと回された腕を軽くはたいた。

「いい加減離してくれませんかね」

魔王はハッとして腕を離そうとしたが、何を思ったのか離すのを止め、いっそうきつく抱きしめた。
青年は冷たい目でじと~と魔王を睨む。

「……ちょっと、だから、離して下さいって」
「離した瞬間出て行くんじゃないだろうな?」
「行く訳ないでしょう。まだ死ぬ気はないですよ」
「……本当だな?」
「本当ですってば」
「本当に本当だな?」
「本当です」
「嘘じゃ」「しつっこいなぁ! 本当だって言ってんですよ!」

互いに一歩も引かず睨みあう。
暫くして、魔王がパッと腕を離した。
そして傍に控えていた者に静かに命令する。

「今すぐ《龍仙りゅうせん》の奴を呼んで来い」


すると「はっ」と返事をし直ぐに姿を消した。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?

ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。 ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。 そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

弟が生まれて両親に売られたけど、売られた先で溺愛されました

にがり
BL
貴族の家に生まれたが、弟が生まれたことによって両親に売られた少年が、自分を溺愛している人と出会う話です

処理中です...