9 / 168
第一章
藁にもすがる08
しおりを挟む「あのー二人の決意はよーく分かったんだけど、魔族の子でも親の邪気にあてられるんですよね?この子は大丈夫なんですか?」
そろそろ掴み合いを始めそうになった二人に、呆れて声をかけた。
すると魔王がこっちを振り向く。
「それなら案ずるな。この部屋に結界をはってあるからな。人間のお前にも赤ん坊にも邪気の影響はない」
「ただちょっとわたくし達には息苦しいですがね」
そう言って笑う二人、自分達は息苦しい筈なのに、ここにいる者達はそれを我慢してると言うのか、たった二人の人間の為に、そしてこの二人はそう言って笑ってみせるのか。
その姿に、青年の気持ちは一応決まった。
が、ちょっと言わずにはいられない事が
「……それでいいなら、魔族の子にも結界使ってあげたらいいのでは」
その場にいた全員が固まった。
「か、考えた事もなかった。泉に預けるのが当たり前すぎて……」
項垂れる魔王。思った異常にショックを受けたらしい。
すると話を聞いていた一人の魔族が口を挟んだ。
「いやでも、一般の魔族は魔王さまやハクイ様のように結界を扱える程の魔力は持ってないし……」
魔王とハクイはそう言えば、という顔をした。
青年はその魔族に「そうなの?」と聞く。
すると少し驚きつつも
「はい、魔力と邪気は比例するのですが、持っている邪気が濃い程、魔力も強いんです。結界は高等魔術なので魔王さま方ほどの魔力の持ち主でなければ到底扱えません」
「ふーん、そうなのか。じゃあ仕方ないと言えば仕方ないのか」
その言葉に魔王とハクイは密かにホッとした。
そんな事とは露知らず青年は赤ん坊に視線を移す。
赤ん坊は素っ裸でオムツの代わりなのか布がいくえにも巻かれていた。
(一応真新しい物に取り替えてはいるのか、身体も拭いてあげてはいるみたいだが、無知ながらにも最善をつくしたにしてはあまりに酷い。これは正直生きていた事が奇跡だ早めに)
その赤ん坊を更に大きめの布で包むようにくるんでいる。
(……ん?)
ふと赤ん坊の顔色が気になった。
「あのすみません。この子拾ったのっていつ?」
「確か三日前、だったか?」
「えぇ、そうですね。三日ほど前です」
「その間、この子どうしてたんで? 食事とか」
「それが分からなくて一番困ってたんだ。肉を近付けても嫌がるし」
「肉っ」
「仕方ないので水を、その水もそのまま飲ませていいのか不安だったので一応沸騰させたのを冷ましてから花の」
「今すぐ乳母を、もしくはミルクを」
ハクイの言葉を青年が遮る。その顔は酷く真剣だ。
「う、乳母?」
「ミルク?」
魔族達は訳がわからないと言う様子で、まぬけにもポカンと呆ける。
(て、ある筈ないし知る筈もないか)
「とにかく今すぐ隣の、人間の領土まで行って粉ミルクと哺乳瓶を、中央街なら必ずあるはず、あとオムツも大量に買ってきて下さい」
「オムツ?」
「赤ちゃんのパンツです。布の」
「布なら巻いてるが?」
「~っ違う!あぁもう俺が買って来ますから!!」
「ちょっちょっと待て!」
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。
夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。
キャラクター
シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm
ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目
ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm
頭…中年 盗賊団のトップ 188cm
ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる