7 / 168
第一章
藁にもすがる06
しおりを挟む「一応人間について書かれた物は何冊か見付け、人間について詳しい者も何人かいたんだが……さすがに人間の育て方となるとあてにならなくてだな」
「あーなるほど。でも魔族の子供とあんまりかわらないんじゃないですか?」
青年が何気無く言うと、魔王と赤ん坊あやしに奮闘するハクイとその他数人の魔族がキョトンとした。
「え? なんです? 俺なんか変な事いいました?」
触れてはいけない話だったのか?と、思わず動揺する。
すると魔王は
「魔族は子育てなどしないぞ?」
当たり前のようにそう言った。
「はい?」
今度は青年がキョトンとする番だった。
「と言うより《する必要がない》と言った方が正しいですね」
いつの間にかガビガビになっていた髪を洗い終え、サラサラヘアーに戻っていたハクイが言う。
「魔族は子供が生まれたら聖なる泉の傍に赤ん坊を預けるんです」
青年は、なんとも間抜けな顔をした。
「え? 魔族が? 聖なる泉に? 預ける?」
「えぇ、魔族は普通邪気の塊みたいなものなのですが、生まれたばかりの魔族の子は邪気を一切持っていないのです。その状態で邪気が充満する魔族の土地や親との生活は難しい。さすがに人間のように死ぬ事はありませんが、健康的に育つ事は望めません。その為親は、邪気のない聖なる泉の傍に赤ん坊を預けるのです」
「え? それで本当に大丈夫なんですか?誰が面倒をみるんです? ……て、言うか聖なる泉とやらに魔族って近付けるんですか? 聖なるなんでしょ? 邪気の塊が近付いて平気なんですか?」
「おかしな事を言いますね。聖なる泉ですよ?生きとし生きるもの全てにおいて聖なる泉です」
(はぁなるほど……いや、ワケわからん)
話を聞いていた青年の顔が徐々に険しくなったのも無理はない。
「とにもかくにも大丈夫です。何しろ魔族の子ですから、あとは勝手に育ちます」
「いったい全体その自信は何処から」
「実際14歳になる頃には自然と魔族の土地に自ら戻って来るのですよ」
ハクイは少し自慢気に言う。
「そうそう。どっからともなく帰って来るんだよなぁ。ただ誰がどいつの子なのかサッパリわからんのだけど」
「生まれて直ぐ、泉の傍に預けてしまいますからね。さすがの魔族もサッパリですよ」
「そもそも我らは一人一人が長生きだからめったに子作りなどしないしなぁ。そのせいもあって自分に子供が出来た事など直ぐ忘れてしまう」
「あぁ分かります分かります。子供がいないのが当たり前過ぎて、出来た事忘れてしまいますよね~」
「私も自分の親の顔なぞ知らんしな」
「あぁわたくしもです」
ハッハッハッハッハッハッ
ハッハッハッハッハッ
魔族達にとってはあるあるなのか、その場にいた全員が大した事無さげに笑っている。
そんな中、青年の表情だけが密かに凄みを増した。
2
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。
なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。
なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。
「まあ何も変わらない、はず…」
ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。
ほんとに。ほんとうに。
紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22)
ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。
変化を嫌い、現状維持を好む。
タルア=ミース(347)
職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。
最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

ペットの餌代がかかるので、盗賊団を辞めて転職しました。
夜明相希
BL
子供の頃から居る盗賊団の護衛として、ワイバーンを使い働くシグルトだが、理不尽な扱いに嫌気がさしていた。
キャラクター
シグルト…20代前半 竜使い 黒髪ダークブルーの目 174cm
ヨルン…シグルトのワイバーン シグルトと意志疎通可 紫がかった銀色の体と紅い目
ユーノ…20代後半 白魔法使い 金髪グリーンの瞳 178cm
頭…中年 盗賊団のトップ 188cm
ゴラン…20代後半 竜使い 172cm

僕たち、結婚することになりました
リリーブルー
BL
俺は、なぜか知らないが、会社の後輩(♂)と結婚することになった!
後輩はモテモテな25歳。
俺は37歳。
笑えるBL。ラブコメディ💛
fujossyの結婚テーマコンテスト応募作です。
皇帝に追放された騎士団長の試される忠義
大田ネクロマンサー
BL
若干24歳の若き皇帝が統治するベリニア帝国。『金獅子の双腕』の称号で騎士団長兼、宰相を務める皇帝の側近、レシオン・ド・ミゼル(レジー/ミゼル卿)が突如として国外追放を言い渡される。
帝国中に慕われていた金獅子の双腕に下された理不尽な断罪に、国民は様々な憶測を立てる。ーー金獅子の双腕の叔父に婚約破棄された皇紀リベリオが虎視眈々と復讐の機会を狙っていたのではないか?
国民の憶測に無言で帝国を去るレシオン・ド・ミゼル。船で知り合った少年ミオに懐かれ、なんとか不毛の大地で生きていくレジーだったが……彼には誰にも知られたくない秘密があった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる