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第一章

藁にもすがる05

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「勿論私も色々考えた。まず人間の王にこの事を伝え、引き取って貰えないかと」
「えー本当ですか? どこの王にです?」
「それは勿論、直ぐ隣のだ。ネーベル森林の向こうの。おそらくこの赤ん坊もあちらの者だろう」

胡散臭そうにする青年に魔王は眉を寄せる。

「嘘ではない。何度かふみを持たせ使いをやったが、返事が来ないんだ。使いにやった者が浮かない顔で帰ってくるばっかりで」
「まさか」
「本当だ。まぁ今の代の王は魔族をとことん嫌っているみたいだからな。そうだろうと思ってはいたが……。あぁ一つ前の王の時は良かった。魔族と友好的で」
「いや前の代の時も友好的じゃなかったですよ」
「魔王さま、それはかなり前の話です。わたくしも今すぐには思い出せません」
「なんだそうだったか?」

(んー長く生きすぎてボケてんだな)

そんな失礼な事を思いつつ、青年は小難しい顔をして、唇に手をやり考えている。

「どうした?」

まさか邪気のせいで具合でも悪くなったのかと、結界を強めようとして、髪をしゃぶられガビガビになった髪のハクイに止められたところで青年が徐に口を開く。

「魔王さまの言っている事が本当なら、それ、王のところまで届いてないですよ。多分誰かがなかった事にしているんだ。城には今の王をよく思わない人間も中にはいますから、もしくは、門番がただただアホなのか」
「そう、なのか?」
「えぇ、でなければ今の王なら必ず返事を出し、今頃赤ん坊は王宮でスヤスヤと寝息をたてていますよ」
「そうか、そうなのか。そんな幼稚な嫌がらせをする奴がいるとは……全く困ったものだな」
「本当にそうですね」

二人は深く溜め息をつく。

「それにしてもお前、随分と内情に詳しいんだな」
「えぇ、実はちょっと城で働いていた事がありまして、少しばかり詳しいんです」
「はー、人は見掛けによらないとはよく言うが」

魔王はさも意外そうに、冴えない村人にしかみえない青年をじろじろと見やった。

「見掛けによらないのはそっちだと思うけど」

ボソリと呟くと「ん?」と不思議そうな顔をした魔王に「いいえ、なんでもないです」とどうでもよさそうに返した。

「まぁそれで、還す訳にもいかず、とりあえず人間の赤ん坊を育てる為に何か役に立ちそうな書物はないかと、城の端から端までひっくり返して探したんだが、何一つ役に立ちそうになかった」
「無駄に長生きなのに今まで何やってたんですか」
「あぁ私もそう思う」

魔王はまるで他人事のように冷静に頷いた。


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