彼女の些細なおとしもの

よもぎ大福

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ある雨上がりの公園で

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 まどかちゃんにあって1週間後、再び巡ってきた土曜日。私はひとり公園に来ていた。
 彼女の落とし物は、管理事務所にはやはり届いておらず、私は1週間前に探した道を、足元を見ながら再び歩いていた。
 まどかちゃんの連絡先も知らない。もし見つけても届ける手段はない。それでも、見つけたいという気持ちがあった。
 あの後、カフェで母とお茶をしながら、まどかちゃんの落とし物の話になった。
「その頃ってお友達の言葉重いよねー。」と母は軽い口調で話していた。
「あなたも小さい頃、侍になるって毎日おもちゃの刀振り回してたのに、同じクラスの子に変だよって言われてから、練習やめちゃって。お父さんもお母さんも大丈夫、かっこいいよって言ったけど、届かなかったなぁ。」
 私の思い出はまた別の話ではあるし、確かに変だったのかもしれない。
 でもその時のざらりとした嫌な感情は何となく覚えている。恥ずかしくて、悔しくて。大事な髪ゴムをポケットに隠した彼女の気持ちがわかる。好きなものを否定されるのは辛い。否定されるくらいなら、隠した方がいい。
まだ小さい彼女に、他人の目を気にするな、なんて酷な話だ。それでも、好きと言えばよかった、と立ち向かおうとしている彼女を強い子だと思う。
 だから髪ゴムを見つけて、それがどんなものであろうとも、言ってあげるのだ。
とっても可愛いよ、と。
舗装された道から少し外れた草むらの中。昨日の雨でぬかるんだ土。伸びた草には露が輝いている。
まどかちゃんはこの辺りでバッタを捕まえていたと言っていた。
と、俯いた視界に他の靴が飛び込んできた。ぶつかる!そう慌てて顔を上げると、女の子が同じように驚いた顔でこちらを見ていた。
「ごめんなさい、探し物してて気づきませんでした。」
「こちらこそ、ごめんなさい!私も同じなんです。」
高校生くらいの女の子だ。ポニーテールの髪を揺らしながら、はにかんだように笑う。
「この辺りで、私の落とし物をみませんでしたか?」

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