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第19話 生き返らせた少年
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響き渡る轟音。
晴れ渡る朝の空を切り裂く、黒い噴霧。
そして、山が流れ落ちて行く。
それは逃れることなどできない、死の流れ。
「覚えているでしょう。ここは、あなたの故郷。突然の噴火で、瞬く間に岩の河に埋もれてしまった村。」
「覚えているよ。俺はたまたま、山を登っていたんだ。村にいなかったから、直撃を免れた。」
谷を走る岩のなだれ。ほんの少し村を離れたクレス。そのほんの少しが、生死を分けた。
「恐ろしい噴火だった。でも、不思議なことが起きていた。消えたはずの村が残っていた。何ひとつ姿を変えず。」
村からは、人々の笑い声が響いていた。
何事もなかったかのように、人々が暮らしていた。
「そんなはずはないよ。俺は確かに、崩れた村を見たんだ!」
笑顔の輪の中に、茶色い髪の少年がいた。
幼い頃のクレスだ。
「5歳のあなたにとって、日常はいつまでも続くものだった。噴火で村がなくなるなんて、あり得ないことだった。だから、噴火はないことになった。」
穏やかな日々が続いて行く。
何も変わらない、誰も欠けることのない日々。
「あなたは死んだ村を生き返らせ、5歳のまま暮らしていた。でも、あの男がやってきた。」
陽に輝く金色の髪。湖水のような美しい緑の瞳。
ヴィオン・ユラフィスは訝しげに村を歩いて回っていた。
周囲の村々が崩壊し、地形的にも被害を免れるはずがないこの村が、どうして無事なのか。
「災害救助隊に加わっていたヴィオンは、この不可解な現象の原因が、あなたであることに気づいた。そして、あなたを村から連れ出した。そのせいで村は本当に死んでしまった。」
崩壊した村を呆然と見つめる幼いクレス。
そのクレスに手を差し伸べるヴィオン。
「彼はあなたを人間として扱った。人としての時の流れの中に戻そうとした。
そのお陰で、完全に時が止まった私とは違って、あなたはゆっくりとだけど成長していった。
でも今度は、ヴィオンの時が止まってしまった。」
少しづつ背が伸びて行くクレスの横で、ヴィオンは変わらぬ姿で歩き続けている。
「人はね、老いるものなの。そのことを理解できない、もう家族を失いたくないあなたは、彼を永遠に共に生きる存在にしてしまった。ヴィオンはいつまでもあなたの『兄』としての姿を保つことになった。何十年もね。」
老いることも許されず、徐々に友人・知人達との交流を断たれていく。
孤独な英雄の姿がそこにあった。
「俺はただ、兄さんの手伝いを。助けてくれた、育ててくれたお礼がしたくて。」
「わかっているよ。あなたが、ヴィオンを大切に思っていること。苦しめるつもりなんてなかったこと。でもね、彼には救いが必要だった。だから。」
そこは月明かりの綺麗な夜。
木々の囁きの中、佇むヴィオン・ユラフィス。
そして、その後ろに立つ私。
「だから、私が救ったの。」
晴れ渡る朝の空を切り裂く、黒い噴霧。
そして、山が流れ落ちて行く。
それは逃れることなどできない、死の流れ。
「覚えているでしょう。ここは、あなたの故郷。突然の噴火で、瞬く間に岩の河に埋もれてしまった村。」
「覚えているよ。俺はたまたま、山を登っていたんだ。村にいなかったから、直撃を免れた。」
谷を走る岩のなだれ。ほんの少し村を離れたクレス。そのほんの少しが、生死を分けた。
「恐ろしい噴火だった。でも、不思議なことが起きていた。消えたはずの村が残っていた。何ひとつ姿を変えず。」
村からは、人々の笑い声が響いていた。
何事もなかったかのように、人々が暮らしていた。
「そんなはずはないよ。俺は確かに、崩れた村を見たんだ!」
笑顔の輪の中に、茶色い髪の少年がいた。
幼い頃のクレスだ。
「5歳のあなたにとって、日常はいつまでも続くものだった。噴火で村がなくなるなんて、あり得ないことだった。だから、噴火はないことになった。」
穏やかな日々が続いて行く。
何も変わらない、誰も欠けることのない日々。
「あなたは死んだ村を生き返らせ、5歳のまま暮らしていた。でも、あの男がやってきた。」
陽に輝く金色の髪。湖水のような美しい緑の瞳。
ヴィオン・ユラフィスは訝しげに村を歩いて回っていた。
周囲の村々が崩壊し、地形的にも被害を免れるはずがないこの村が、どうして無事なのか。
「災害救助隊に加わっていたヴィオンは、この不可解な現象の原因が、あなたであることに気づいた。そして、あなたを村から連れ出した。そのせいで村は本当に死んでしまった。」
崩壊した村を呆然と見つめる幼いクレス。
そのクレスに手を差し伸べるヴィオン。
「彼はあなたを人間として扱った。人としての時の流れの中に戻そうとした。
そのお陰で、完全に時が止まった私とは違って、あなたはゆっくりとだけど成長していった。
でも今度は、ヴィオンの時が止まってしまった。」
少しづつ背が伸びて行くクレスの横で、ヴィオンは変わらぬ姿で歩き続けている。
「人はね、老いるものなの。そのことを理解できない、もう家族を失いたくないあなたは、彼を永遠に共に生きる存在にしてしまった。ヴィオンはいつまでもあなたの『兄』としての姿を保つことになった。何十年もね。」
老いることも許されず、徐々に友人・知人達との交流を断たれていく。
孤独な英雄の姿がそこにあった。
「俺はただ、兄さんの手伝いを。助けてくれた、育ててくれたお礼がしたくて。」
「わかっているよ。あなたが、ヴィオンを大切に思っていること。苦しめるつもりなんてなかったこと。でもね、彼には救いが必要だった。だから。」
そこは月明かりの綺麗な夜。
木々の囁きの中、佇むヴィオン・ユラフィス。
そして、その後ろに立つ私。
「だから、私が救ったの。」
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