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第12話 王都の学者

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 王都に到着したのは、その日の夜遅くだった。

 私達は王宮の離れに連れて行かれ、用意されたそれぞれの部屋に押し込められた。クレスの扉の前には監視つきだ。

 肩身の狭さは感じるが、部屋自体は上等なものだった。私はベッドに腰掛け、大きく伸びをする。

 1日がかりの移動で、すっかり疲れていた。儀式からまだ三日と経っていない。気の休まる時がない。

 明日には女王との謁見もある。今は少しでも眠らないと。

 私はベッドに横たわり、目を閉じる。

 でも、眠れない。

 外から響く大声のせいだ。

 私は部屋から顔を出した。

 隣の部屋、クレスが案内された部屋の前で、見張りの兵士と見知らぬ男が揉めている。

「ですから、明日お越しください。」

「ちょっとだけ!ちょっと話すだけだから!すぐ帰るから!」

「駄目です。それに相手は精霊術士ですよ。」

「大丈夫、俺も精霊術士。頼むよ、ずっと待ってたんだよ。」

 栗色の癖っ毛に、眼鏡。長身を紫色のローブに包み込んでいる。あの服は学者の身分を示すものだ。

 ふと、男の目がこちらを向く。目が合った、そう思った瞬間、男はこちらに駆け寄っていた。

「君がイアルさんだね。話を聞かせてくれないか。明日まで待ち切れなくてね。俺の仮説が証明されようとしているんだよ。」

「仮説?」

 うかつにも聞き返してしまった。

「そう、この国の神話、というか歴史をね、解き明かしたいんだ、俺は。」

 男は目を輝かせて話し続ける。

「海の神殿のレリーフは見たかい?一般的には、アラヤザとアラヤミ、そして王の娘が二人描かれているとされている。

 でも俺はね、王の娘は一人だと思っているんだ。二人の娘を描いたんじゃなくて、一人の娘を時間の経過とともに表現したのだと思う。衣装も髪型も全く同じなんだ。二人の人間を表現しようと思ったら、普通は描き分けようと思うだろ?

 では、いつから王の娘は二人に、しかも生贄として扱われることになったのか。」

「あの、私そろそろ。」

「そう、王が娘を殺してからだ!」

「え?」

 突然の物騒な発言に、その場を離れられなくなった。

「王の娘はアラヤザとアラヤミと言葉を交わすことができた。これ以上ない権威だったわけだ。人々も娘を崇めただろうね。やがてその人気は王を恐れさせた。

 王は娘を殺し、権威を取り戻した。そして、娘の死に意味を与える必要があった。それが、継承の儀式。

 海の儀式と山の儀式はどうして同時に行われないと思う?娘が一人しかいなかったからだよ。」

 話し終えて満足したのか、男の声が少し落ち着く。

「神話に限らず、誰かが物語る時、必ずそこには意思が宿る。」

 どこかで聞いたような台詞だった。

 そう、海の神殿で耳にした。

「あなた、ガラドールのお知り合い?」

「ガラドールは俺の弟子だよ。ああ、そうだ、大事なことを言い忘れてた。」

 男は微笑みを浮かべ、頭を下げる。

「俺の名前はロゼリオ。王都勤めの歴史学者だ。大事な弟子を助けてくれて、ありがとう。」
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