19 / 23
第16話 精霊騎士団長
しおりを挟む
サラ王女は公務に戻り、アルムは親戚を訪ねると去って行った後。
「クレスくん、これからどうするの?」
並んで城内を歩きながら、クレスに話しかける。
「山の神殿に出発するまでの間、王都で兄さんを探してみるよ。可能性はかなり低いけど、昔の冒険仲間に会いに来てるかもしれない。」
「かなり低いのかー。」
「イアルさんも一緒に来てくれる?」
「もちろん!嫌がられてもついていくよ。」
クレスは嬉しそうに目を輝かせる。
「よかった!何故か俺が聞いて回ると、みんな嫌そうな顔するから。」
そういえば、初めて声を掛けた時も大分傷心状態だった。
「ちょっとした言葉選びだよ。ちゃんと手伝うから、」
大丈夫だよ。
そう口にする前に私の声は、遠くから飛んできた野太い声にかき消される。
「ここにいたのか!やっと会えた!」
声の先を振り返る。足早に歩み寄ってくるのは帯剣した騎士の男。
大柄な体に短く刈った金髪。
日に焼けた黒い肌。
身につけた制服は、この国の精霊術士が憧れるエリート集団、精霊騎士団のものだ。
しかもその胸に輝く記章は、騎士団の長たる証。
「私はマクザン。精霊騎士団の団長を務めているものだ。」
クレスが素早く私の背中に隠れる。
「ちょっと、どうしたの、そんな怯えて。」
「いや精霊騎士団長でしょ?兄さんが言ってたんだよ。声大きいし、距離感近くて、怖いって。」
そんなクレスの様子を気にするでもなく、団長はクレスの肩を豪快に叩く。
「海の神殿では、俺の部下達を手玉に取ったそうだな。さすがヴィオン・ユラフィスの後継者だ。」
精霊騎士団はその名の通り、精霊術士で構成された騎士団だ。王家直属の部隊であり、精鋭揃いで知られている。
その猛者達を束ねる団長の実力は、言うまでもない。
「その節は申し訳ありませんでした。」
怯えながら頭を下げるクレス。
しかしマクザンは朗らかに笑って、その頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「いいや、感謝しているんだ。ガラドールを助けてくれてありがとう。これで、あいつを精霊騎士団に入団させられるかもしれない。」
「ガラドールさんを?」
「優秀な生徒でね。変わり者の学者に弟子入りするわ、海の姫の伴侶になるわ、捉えどころのないやつだ。」
ガラドールは、どうやら相当期待されていたらしい。
それだけ彼は必死に、アミルを救う術を探し求めていたのだろう。
「そうそう、今日から俺が、君の護衛に任じられたから。」
「えええ?嫌ですよ!」
「素直な奴だな。でも決まったことだから!城の外へ、勝手に出たら駄目だぞ。必ず俺が付き添う。よろしく!」
それだけ言い残し、マクザンは去って行った。
一方的な展開に呆然とするクレス。
私も驚きを隠せない。
精霊騎士団長は、本来一個人の護衛に就く立場ではない。
マクザン騎士団長は、歴代最強と謳われるほどの実力者。
それだけクレスは今この国にとって、価値のある人間なのだ。
「護衛って。え、俺って狙われてるの?」
「継承の儀式の信奉者が、各地で行動を起こしてる。あなたが狙われても不思議はない。」
「もしかして、兄さん探してる場合じゃない?」
「やめておいた方が良さそうかも。」
まさか騎士団長が直々に動き出すとは。
当然、女王も承知の事だろう。
私が思っていたより、状況は芳しくないようだ。
目に見えて落ち込んでいるクレス。
無理もない。あまりに理不尽だ。
間違いなく彼は英雄なのに、非難の目を向けられ、その身に危害が及ぶ恐れすらあるなんて。
私は慎重に言葉を選ぶ。
「クレスくんは、間違ってないよ。あなたの力は、海の姫とその周りの人々を助けた。
その力はこれから、もっとたくさんの人を救うことになる。」
クレスは呟く。
「俺はただ。」
うなだれたままの、か細い声。
「イアルさんとの街中デートで、進展を期待しただけなのに。」
なんという図太さ。心配したのに。
「あ、でも外に出ると騎士団長ついてくるのかー。」
ヴィオン・ユラフィスは、どうやってこの子をこんな強メンタルに育て上げたのだろう。
呆れながらも、安堵する。
彼ならば、この先も大丈夫。
何があろうと乗り越えられる。
「クレスくん」
とうとうしゃがみ込んでしまった彼に、優しく手を差し伸べる。
「デートしようか。今日の夜。」
「クレスくん、これからどうするの?」
並んで城内を歩きながら、クレスに話しかける。
「山の神殿に出発するまでの間、王都で兄さんを探してみるよ。可能性はかなり低いけど、昔の冒険仲間に会いに来てるかもしれない。」
「かなり低いのかー。」
「イアルさんも一緒に来てくれる?」
「もちろん!嫌がられてもついていくよ。」
クレスは嬉しそうに目を輝かせる。
「よかった!何故か俺が聞いて回ると、みんな嫌そうな顔するから。」
そういえば、初めて声を掛けた時も大分傷心状態だった。
「ちょっとした言葉選びだよ。ちゃんと手伝うから、」
大丈夫だよ。
そう口にする前に私の声は、遠くから飛んできた野太い声にかき消される。
「ここにいたのか!やっと会えた!」
声の先を振り返る。足早に歩み寄ってくるのは帯剣した騎士の男。
大柄な体に短く刈った金髪。
日に焼けた黒い肌。
身につけた制服は、この国の精霊術士が憧れるエリート集団、精霊騎士団のものだ。
しかもその胸に輝く記章は、騎士団の長たる証。
「私はマクザン。精霊騎士団の団長を務めているものだ。」
クレスが素早く私の背中に隠れる。
「ちょっと、どうしたの、そんな怯えて。」
「いや精霊騎士団長でしょ?兄さんが言ってたんだよ。声大きいし、距離感近くて、怖いって。」
そんなクレスの様子を気にするでもなく、団長はクレスの肩を豪快に叩く。
「海の神殿では、俺の部下達を手玉に取ったそうだな。さすがヴィオン・ユラフィスの後継者だ。」
精霊騎士団はその名の通り、精霊術士で構成された騎士団だ。王家直属の部隊であり、精鋭揃いで知られている。
その猛者達を束ねる団長の実力は、言うまでもない。
「その節は申し訳ありませんでした。」
怯えながら頭を下げるクレス。
しかしマクザンは朗らかに笑って、その頭をぐしゃぐしゃと撫でる。
「いいや、感謝しているんだ。ガラドールを助けてくれてありがとう。これで、あいつを精霊騎士団に入団させられるかもしれない。」
「ガラドールさんを?」
「優秀な生徒でね。変わり者の学者に弟子入りするわ、海の姫の伴侶になるわ、捉えどころのないやつだ。」
ガラドールは、どうやら相当期待されていたらしい。
それだけ彼は必死に、アミルを救う術を探し求めていたのだろう。
「そうそう、今日から俺が、君の護衛に任じられたから。」
「えええ?嫌ですよ!」
「素直な奴だな。でも決まったことだから!城の外へ、勝手に出たら駄目だぞ。必ず俺が付き添う。よろしく!」
それだけ言い残し、マクザンは去って行った。
一方的な展開に呆然とするクレス。
私も驚きを隠せない。
精霊騎士団長は、本来一個人の護衛に就く立場ではない。
マクザン騎士団長は、歴代最強と謳われるほどの実力者。
それだけクレスは今この国にとって、価値のある人間なのだ。
「護衛って。え、俺って狙われてるの?」
「継承の儀式の信奉者が、各地で行動を起こしてる。あなたが狙われても不思議はない。」
「もしかして、兄さん探してる場合じゃない?」
「やめておいた方が良さそうかも。」
まさか騎士団長が直々に動き出すとは。
当然、女王も承知の事だろう。
私が思っていたより、状況は芳しくないようだ。
目に見えて落ち込んでいるクレス。
無理もない。あまりに理不尽だ。
間違いなく彼は英雄なのに、非難の目を向けられ、その身に危害が及ぶ恐れすらあるなんて。
私は慎重に言葉を選ぶ。
「クレスくんは、間違ってないよ。あなたの力は、海の姫とその周りの人々を助けた。
その力はこれから、もっとたくさんの人を救うことになる。」
クレスは呟く。
「俺はただ。」
うなだれたままの、か細い声。
「イアルさんとの街中デートで、進展を期待しただけなのに。」
なんという図太さ。心配したのに。
「あ、でも外に出ると騎士団長ついてくるのかー。」
ヴィオン・ユラフィスは、どうやってこの子をこんな強メンタルに育て上げたのだろう。
呆れながらも、安堵する。
彼ならば、この先も大丈夫。
何があろうと乗り越えられる。
「クレスくん」
とうとうしゃがみ込んでしまった彼に、優しく手を差し伸べる。
「デートしようか。今日の夜。」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる