さがしびと〜英雄の弟と永遠の姫〜

よもぎ大福

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第16話 精霊騎士団長

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 サラ王女は公務に戻り、アルムは親戚を訪ねると去って行った後。

「クレスくん、これからどうするの?」

 並んで城内を歩きながら、クレスに話しかける。

「山の神殿に出発するまでの間、王都で兄さんを探してみるよ。可能性はかなり低いけど、昔の冒険仲間に会いに来てるかもしれない。」

「かなり低いのかー。」

「イアルさんも一緒に来てくれる?」

「もちろん!嫌がられてもついていくよ。」

 クレスは嬉しそうに目を輝かせる。

「よかった!何故か俺が聞いて回ると、みんな嫌そうな顔するから。」

 そういえば、初めて声を掛けた時も大分傷心状態だった。

「ちょっとした言葉選びだよ。ちゃんと手伝うから、」

 大丈夫だよ。

 そう口にする前に私の声は、遠くから飛んできた野太い声にかき消される。

「ここにいたのか!やっと会えた!」

 声の先を振り返る。足早に歩み寄ってくるのは帯剣した騎士の男。

 大柄な体に短く刈った金髪。

 日に焼けた黒い肌。

 身につけた制服は、この国の精霊術士が憧れるエリート集団、精霊騎士団のものだ。

 しかもその胸に輝く記章は、騎士団の長たる証。

「私はマクザン。精霊騎士団の団長を務めているものだ。」

 クレスが素早く私の背中に隠れる。

「ちょっと、どうしたの、そんな怯えて。」

「いや精霊騎士団長でしょ?兄さんが言ってたんだよ。声大きいし、距離感近くて、怖いって。」

 そんなクレスの様子を気にするでもなく、団長はクレスの肩を豪快に叩く。

「海の神殿では、俺の部下達を手玉に取ったそうだな。さすがヴィオン・ユラフィスの後継者だ。」

 精霊騎士団はその名の通り、精霊術士で構成された騎士団だ。王家直属の部隊であり、精鋭揃いで知られている。

 その猛者達を束ねる団長の実力は、言うまでもない。

「その節は申し訳ありませんでした。」

 怯えながら頭を下げるクレス。

 しかしマクザンは朗らかに笑って、その頭をぐしゃぐしゃと撫でる。

「いいや、感謝しているんだ。ガラドールを助けてくれてありがとう。これで、あいつを精霊騎士団に入団させられるかもしれない。」

「ガラドールさんを?」

「優秀な生徒でね。変わり者の学者に弟子入りするわ、海の姫の伴侶になるわ、捉えどころのないやつだ。」

 ガラドールは、どうやら相当期待されていたらしい。

 それだけ彼は必死に、アミルを救う術を探し求めていたのだろう。

「そうそう、今日から俺が、君の護衛に任じられたから。」

「えええ?嫌ですよ!」

「素直な奴だな。でも決まったことだから!城の外へ、勝手に出たら駄目だぞ。必ず俺が付き添う。よろしく!」

 それだけ言い残し、マクザンは去って行った。

 一方的な展開に呆然とするクレス。

 私も驚きを隠せない。

 精霊騎士団長は、本来一個人の護衛に就く立場ではない。

 マクザン騎士団長は、歴代最強と謳われるほどの実力者。

 それだけクレスは今この国にとって、価値のある人間なのだ。

「護衛って。え、俺って狙われてるの?」

「継承の儀式の信奉者が、各地で行動を起こしてる。あなたが狙われても不思議はない。」

「もしかして、兄さん探してる場合じゃない?」

「やめておいた方が良さそうかも。」

 まさか騎士団長が直々に動き出すとは。

 当然、女王も承知の事だろう。

 私が思っていたより、状況は芳しくないようだ。

 目に見えて落ち込んでいるクレス。

 無理もない。あまりに理不尽だ。

 間違いなく彼は英雄なのに、非難の目を向けられ、その身に危害が及ぶ恐れすらあるなんて。

 私は慎重に言葉を選ぶ。

「クレスくんは、間違ってないよ。あなたの力は、海の姫とその周りの人々を助けた。

 その力はこれから、もっとたくさんの人を救うことになる。」

 クレスは呟く。

「俺はただ。」

 うなだれたままの、か細い声。

「イアルさんとの街中デートで、進展を期待しただけなのに。」

 なんという図太さ。心配したのに。

「あ、でも外に出ると騎士団長ついてくるのかー。」

 ヴィオン・ユラフィスは、どうやってこの子をこんな強メンタルに育て上げたのだろう。

 呆れながらも、安堵する。

 彼ならば、この先も大丈夫。

 何があろうと乗り越えられる。

「クレスくん」

 とうとうしゃがみ込んでしまった彼に、優しく手を差し伸べる。

「デートしようか。今日の夜。」

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