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第2話 精霊の愛し子
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英雄譚の終わりは大体相場が決まっている。
『王子様もしくはお姫様と結婚して、幸せに暮らしました。』
『非業の死を遂げるも、その名は未来永劫語り継がれることでしょう。』
『戦いが終わり、皆の前から姿を消した英雄のその後を知る者はいない。』
ヴィオン・ユラフィスは消えた英雄だった。
もともと出自が明らかにされていないのも相まって、様々な噂が流れた。
海の向こうにある某国の王子であり、次の戦いに向かった。
実は彼自身が精霊で、精霊の国へ戻った。
最後の戦いで深手を負い、1人静かに死を迎えた。
「最後に姿を見せたのが、王宮で行われた、勝利を祝う盛大な宴。
その最中に、ヴィオン・ユラフィスは姿を消してしまった。」
多くの者がその行方を追ったが、ついに見つからなかった。
その後の国の危機にも姿を現すことはない。
「みんなのノリについていけなくて、途中で抜けたって言ってたよ。
樽抱えてお酒飲むんだって。怖くない?」
「もうちょっとミステリアスな感じでいて欲しかったかな。」
クレスから聞いた経緯は、ざっと次のようなもの。
クレスとヴィオンは各地を転々としており、最近は山村の外れの小屋に二人だけで暮らしていた。
村人との交流はあまりなかった。
買い物などで家を空けることは度々あったが、何も言わずに出掛けることはなかった。
いつもと違うことと言えば、いなくなる直前にちょっとした喧嘩をしてしまったということ。
喧嘩の中身について、クレスはしばらく口ごもっていた。でも私がしつこく聞くと、やがて渋々と口を開いた。
「悪気はなかったんだ。
たまたま掃除してたら、兄さんが昔書いた詩集を見つけて。
勝手に読んでたらめっちゃ怒られた。
恥ずかしくて死ぬ!て叫びながら部屋にこもって、次の日から行方知れずに。」
「イメージと違うなぁ。」
「近くの村は探してみたけど見つからなくて。
山を下りてこの街まで来たんだ。でも、うまくいかなくて。」
クレスはため息をつく。
私は少し考えた後、彼に提案してみた。
「海の神殿に行ってみない?もうすぐ継承の儀式だし、お兄さんも見に行くのかも。」
海の神殿。
神話の時代から語り継がれる、祈りと供物を捧げる聖なる地。
何千年と続く継承の儀式は、この国に生きる者にとって決して疎かにはできないものだ。
「継承の儀式って何?」
「え?」
私は驚いて言葉を失う。
継承の儀式は国を挙げての神事だ。
まさか知らないとは思わなかった。
一方クレスは興味津々という様子だ。
「海の神殿は知ってるよ。
前に行ったこともある。
でも儀式のことはわからない。」
「そっか。
継承の儀式っていうのは。」
説明しかけたものの、考えを改める。
彼のその目で見るべきだ。
そして、その時どう思うのかを知りたい。
「詳しくは海の神殿で話すよ。」
「そんなもったいぶらなくても。」
不満げなクレスに微笑みかける。
「ちょっと説明しづらいの。
それに。」
努めて冷静に伝える。
「私は、あまり好きじゃないんだ。」
『王子様もしくはお姫様と結婚して、幸せに暮らしました。』
『非業の死を遂げるも、その名は未来永劫語り継がれることでしょう。』
『戦いが終わり、皆の前から姿を消した英雄のその後を知る者はいない。』
ヴィオン・ユラフィスは消えた英雄だった。
もともと出自が明らかにされていないのも相まって、様々な噂が流れた。
海の向こうにある某国の王子であり、次の戦いに向かった。
実は彼自身が精霊で、精霊の国へ戻った。
最後の戦いで深手を負い、1人静かに死を迎えた。
「最後に姿を見せたのが、王宮で行われた、勝利を祝う盛大な宴。
その最中に、ヴィオン・ユラフィスは姿を消してしまった。」
多くの者がその行方を追ったが、ついに見つからなかった。
その後の国の危機にも姿を現すことはない。
「みんなのノリについていけなくて、途中で抜けたって言ってたよ。
樽抱えてお酒飲むんだって。怖くない?」
「もうちょっとミステリアスな感じでいて欲しかったかな。」
クレスから聞いた経緯は、ざっと次のようなもの。
クレスとヴィオンは各地を転々としており、最近は山村の外れの小屋に二人だけで暮らしていた。
村人との交流はあまりなかった。
買い物などで家を空けることは度々あったが、何も言わずに出掛けることはなかった。
いつもと違うことと言えば、いなくなる直前にちょっとした喧嘩をしてしまったということ。
喧嘩の中身について、クレスはしばらく口ごもっていた。でも私がしつこく聞くと、やがて渋々と口を開いた。
「悪気はなかったんだ。
たまたま掃除してたら、兄さんが昔書いた詩集を見つけて。
勝手に読んでたらめっちゃ怒られた。
恥ずかしくて死ぬ!て叫びながら部屋にこもって、次の日から行方知れずに。」
「イメージと違うなぁ。」
「近くの村は探してみたけど見つからなくて。
山を下りてこの街まで来たんだ。でも、うまくいかなくて。」
クレスはため息をつく。
私は少し考えた後、彼に提案してみた。
「海の神殿に行ってみない?もうすぐ継承の儀式だし、お兄さんも見に行くのかも。」
海の神殿。
神話の時代から語り継がれる、祈りと供物を捧げる聖なる地。
何千年と続く継承の儀式は、この国に生きる者にとって決して疎かにはできないものだ。
「継承の儀式って何?」
「え?」
私は驚いて言葉を失う。
継承の儀式は国を挙げての神事だ。
まさか知らないとは思わなかった。
一方クレスは興味津々という様子だ。
「海の神殿は知ってるよ。
前に行ったこともある。
でも儀式のことはわからない。」
「そっか。
継承の儀式っていうのは。」
説明しかけたものの、考えを改める。
彼のその目で見るべきだ。
そして、その時どう思うのかを知りたい。
「詳しくは海の神殿で話すよ。」
「そんなもったいぶらなくても。」
不満げなクレスに微笑みかける。
「ちょっと説明しづらいの。
それに。」
努めて冷静に伝える。
「私は、あまり好きじゃないんだ。」
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