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第1話 英雄の弟
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この国には英雄がいる。
創世神話の初っ端から山と海が争うという、荒ぶる島国エコテト。
その歴史は争いの歴史であり、英雄の歴史だ。
華やかで時に残酷な彼らの物語は、人々を魅了する。
「そして人々は願う。
あの英雄のことを、もっと知りたいなぁと。」
「はぁ。」
気のない返事をしたのは、目の前の少年。
赤みがかった茶色い髪に、同じ色の瞳。見た目は15歳前後。
だが歳は関係ない。
彼にとっても私にとっても、重要なのは今目の前にある手書きのビラ。
私は改めて、その内容を見てみた。
「家出人探しています。
名前 ヴィオン・ユラフィス
職業 英雄(精霊術士)
連絡先 クレス(弟) 北アラヤザ村役場」
「それで、話って何ですか?俺は忙しいんですけど。」
ビラの作成者であるクレスは、不機嫌そうに目の前の水を口にする。
ランチの時間が過ぎた街の食堂は、落ち着きを取り戻していた。
残っているのは汽車の出発時間まで時間を潰していると思われる乗客達数名。
そして、テーブルを挟み顔を突き合わせる私と彼。
「ごめんなさいね、あなたと話せるのがうれしくて、つい」
私は顔がニヤけるのを何とか堪えて、ポケットの名刺を彼に差し出した。
「申し遅れました。
私、雑誌の記者をしています、イアルと申します。
あなたと、あなたのお兄さんのことを記事にさせて欲しいんです。」
「兄さんを探すの手伝ってくれるの?」
クレスの顔がぱっと明るくなる。
「よかった、全然見つからなくて困ってたんだ。
ビラを作ったはいいけど、貼ろうとしたら怒られるし、聞く人聞く人、『うわぁ、なんだこいつ』って目で見てくるし、さっきなんて詐欺呼ばわりされて保安隊に通報されるところだった。」
「でしょうね。」
私は込み上げる笑いを噛み潰しながら、クレスの話を聞いていた。
右往左往している彼を、ずっと陰で見ていたのは秘密にしている。
私がお茶に誘わなければ、今頃本当に捕まっていたかもしれない。
彼が探している『精霊の愛し子』ヴィオン・ユラフィス。この国でその名を知らぬ者はいないだろう。
かつてこの国が闇の精霊に閉ざされかけた時、立ち上がり光を取り戻した救国の八賢人の一人。
精霊と心を通わせ、共に戦う精霊術士であり、泉の精霊を模したと謳われる美貌の持ち主。
そして、出自も戦いの後どうなったかもわからない、謎の英雄。
誰も彼の足跡を追えない。
そんな中ひょっこり現れた少年が、弟だと名乗り出てくる。
人々が冷たい態度をとるのは仕方のないことだ。
「英雄や、その親族を騙る輩は大勢いるもの。
なんの証もなくそんなこと言って回ったら、そりゃ疑われるよ。」
クレスは困ったように眉を下げた後、不思議そうにこちらを見てくる。
「イアルさんはどうして信じてくれるの?」
「私も完全に信じたわけじゃないの。
7割くらい疑ってるよ。」
「そんなに?」
「でも、もし本当なら大スクープ。
謎の英雄に単独インタビュー!絶対みんな読みたがる。」
人々は英雄を求めている。そして知りたがっている。
たとえそれが悲しい物語でも。
「私もね、知りたいの。
だから手伝うよ。」
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるクレス。表情の豊かな子だ。
「とりあえずこのビラはやめよう。怪しいから。」
「え、頑張って作ったのに。」
私は有無を言わさずビラを回収する。
「それじゃ、あらためまして。
よろしくね、クレスくん!」
握手を求める私の手を、彼は少し照れたように握り返してくれた。
こうして、私達の旅が始まった。
創世神話の初っ端から山と海が争うという、荒ぶる島国エコテト。
その歴史は争いの歴史であり、英雄の歴史だ。
華やかで時に残酷な彼らの物語は、人々を魅了する。
「そして人々は願う。
あの英雄のことを、もっと知りたいなぁと。」
「はぁ。」
気のない返事をしたのは、目の前の少年。
赤みがかった茶色い髪に、同じ色の瞳。見た目は15歳前後。
だが歳は関係ない。
彼にとっても私にとっても、重要なのは今目の前にある手書きのビラ。
私は改めて、その内容を見てみた。
「家出人探しています。
名前 ヴィオン・ユラフィス
職業 英雄(精霊術士)
連絡先 クレス(弟) 北アラヤザ村役場」
「それで、話って何ですか?俺は忙しいんですけど。」
ビラの作成者であるクレスは、不機嫌そうに目の前の水を口にする。
ランチの時間が過ぎた街の食堂は、落ち着きを取り戻していた。
残っているのは汽車の出発時間まで時間を潰していると思われる乗客達数名。
そして、テーブルを挟み顔を突き合わせる私と彼。
「ごめんなさいね、あなたと話せるのがうれしくて、つい」
私は顔がニヤけるのを何とか堪えて、ポケットの名刺を彼に差し出した。
「申し遅れました。
私、雑誌の記者をしています、イアルと申します。
あなたと、あなたのお兄さんのことを記事にさせて欲しいんです。」
「兄さんを探すの手伝ってくれるの?」
クレスの顔がぱっと明るくなる。
「よかった、全然見つからなくて困ってたんだ。
ビラを作ったはいいけど、貼ろうとしたら怒られるし、聞く人聞く人、『うわぁ、なんだこいつ』って目で見てくるし、さっきなんて詐欺呼ばわりされて保安隊に通報されるところだった。」
「でしょうね。」
私は込み上げる笑いを噛み潰しながら、クレスの話を聞いていた。
右往左往している彼を、ずっと陰で見ていたのは秘密にしている。
私がお茶に誘わなければ、今頃本当に捕まっていたかもしれない。
彼が探している『精霊の愛し子』ヴィオン・ユラフィス。この国でその名を知らぬ者はいないだろう。
かつてこの国が闇の精霊に閉ざされかけた時、立ち上がり光を取り戻した救国の八賢人の一人。
精霊と心を通わせ、共に戦う精霊術士であり、泉の精霊を模したと謳われる美貌の持ち主。
そして、出自も戦いの後どうなったかもわからない、謎の英雄。
誰も彼の足跡を追えない。
そんな中ひょっこり現れた少年が、弟だと名乗り出てくる。
人々が冷たい態度をとるのは仕方のないことだ。
「英雄や、その親族を騙る輩は大勢いるもの。
なんの証もなくそんなこと言って回ったら、そりゃ疑われるよ。」
クレスは困ったように眉を下げた後、不思議そうにこちらを見てくる。
「イアルさんはどうして信じてくれるの?」
「私も完全に信じたわけじゃないの。
7割くらい疑ってるよ。」
「そんなに?」
「でも、もし本当なら大スクープ。
謎の英雄に単独インタビュー!絶対みんな読みたがる。」
人々は英雄を求めている。そして知りたがっている。
たとえそれが悲しい物語でも。
「私もね、知りたいの。
だから手伝うよ。」
「ありがとう!」
満面の笑みを浮かべるクレス。表情の豊かな子だ。
「とりあえずこのビラはやめよう。怪しいから。」
「え、頑張って作ったのに。」
私は有無を言わさずビラを回収する。
「それじゃ、あらためまして。
よろしくね、クレスくん!」
握手を求める私の手を、彼は少し照れたように握り返してくれた。
こうして、私達の旅が始まった。
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