君が嫌いで…好きでした。

秋月

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君が嫌いで…好きでした。

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星が瞬く夜、自分でも忘れていた誕生日をお祝いしてくれる奏叶
差し出してくれた包みを受け取った

千菜「……」

奏叶「開けてみて」

奏叶に言われて私はゆっくりリボンをほどいて開けて見た

千菜「奏叶…これ…」

中から出てきたのは可愛いオルゴール

奏叶「本当はもっと良いものあげれたら良かったんだけど…でもこれ千菜にぴったりだなって思って…鳴らしてみて」

オルゴールのネジを巻くと心地いいメロディーが流れた

千菜「聞いたことない曲…これなんの曲?」

奏叶「for youって曲
これ聞いた時千菜にぴったりだと思ったから
気に入らなかった?」

千菜「…ううん。この曲初めて聞いたけど…好き
奏叶ありがとう…」

誕生日を覚えててくれて、こんな風にお祝いしてくれて…
こんなに誕生日が嬉しかったのは久しぶりだよ…
奏叶の気持ちが嬉しくて涙が出た

奏叶「千菜!?どうしたの?」

千菜「嬉しかったの…奏叶ありがとう…」

奏叶「今日の千菜泣き虫だね」

って奏叶は笑って涙をぬぐってくれた

奏叶「ほらケーキ食べよ。ハッピーバースデイ千菜」

コンビニのシンプルな苺の乗ったショートケーキ…
でも、それでも私には嬉しかった
一口食べると甘酸っぱい味が広がった

奏叶「どう?」

千菜「…美味しい」

奏叶「良かった」

嬉しそうに笑う奏叶につられて私も笑みがこぼれた

奏叶「――…」

そっと奏叶の手が私の頬に触れた

千菜「奏叶?」

奏叶「笑った。いつも千菜可愛いけど笑うともっと可愛い」

少しずつ熱くなる自分の顔
奏叶っていつも恥ずかしがらないでストレートに伝えてくる
私だけ恥ずかしくて…
奏叶の手が頬に触れたまま静かに流れる空気
目が合ったままそらせない

奏叶「…千菜」

千菜「奏叶…?」

ゆっくり奏叶の顔が近づいてきて思わず目をつむった

――こつん…

優しく当たる額と額
奏叶の顔が近くてびっくりした
しばらくすると奏叶はゆっくり離れていって顔を手で覆って顔を背けた

奏叶「…ごめん千菜」

微かに顔が赤い…もしかして照れてる…?
こんな奏叶初めて見たかも…
今日は色んな事があったな…
でも奏叶の色んな顔が知れて…今日を一緒に過ごすことが出来て凄く楽しかった

千菜「…奏叶好き」

奏叶「…なんで嬉しそうなの千菜」

千菜「秘密」

私、今日の事絶対忘れない
奏叶と湊と一緒に過ごした大切な日
楓を失った辛い日から今日は特別な日に上書きされた
これから先、奏叶と湊と一緒に新しい記憶を作っていけたらいいな…

次の朝…

千菜「…ん…?」

気づけば外が明るく朝が来ていた
目を開け隣を見ると奏叶が寝ていた
そっか…昨日あのまま一緒に寝ちゃったんだっけ…
前…熱だした時も奏叶泊まってくれたけど寝顔初めて見たかも
…昨日あの時キスされると思った
こんな気持ち…いいのかな…
ずっと辛かったから今の幸せが少し怖い
寝ている奏叶の頭をそっと撫でた

奏叶「…ん…千菜…?おはよ…」

千菜「おはよ奏叶」

でも大丈夫って思える自分が居る
奏叶、これからも私の側に居てね…
季節は少し巡り窓の外は温かい春風が吹いていた
久しぶりに制服に腕を通して鞄を持った

千菜「チョコ行ってくるね」

玄関を開けて外に出る
アパートの階段を下りて行くとそこには奏叶と湊の姿があった

奏叶「おはよ千菜」

優しい笑顔で迎えてくれた奏叶
その隣では眠たそうにあくびをする湊も居た

千菜「おはよう奏叶、湊」

3人揃うと並んで学校に向かって歩き始めた
温かい春風が吹き私達の住んでいる町にも桜が咲き乱れ新しい季節がやって来ていた

湊「ふわぁ…始業式なんて面倒くさいな」

奏叶「お前さっきからあくびし過ぎ
それに今日はクラス発表もあるんだから」

春が来て私達は3年生になった
高校生最後の1年…

千菜「クラス替え…どうなるんだろ…」

奏叶と湊と離れるの嫌だな…

奏叶「心配しなくてもきっと一緒だよ」

湊「なんの根拠があるんだよ」

奏叶「ん?勘だよ♪」

湊「適当だな…」

千菜「私は奏叶を信じるよ」

湊「千菜まで…」

そんな話をしながら学校に着くと掲示板の所には沢山の人がクラス替えの表を見入っていた

湊「俺が見てきてやるよ。お前らここで待ってろ」

奏叶「よろしく!」

湊が1人掲示板に向かっていった
高校最後の1年…奏叶と湊と一緒に過ごしたい
奏叶は大丈夫って言ったけど…不安になってきた
…私の噂は消えた訳じゃない
奏叶達と離れたら私はあの視線の中で1人になってしまう…

奏叶「大丈夫って言ったでしょ?」

不安に思う私に奏叶は笑いかけてくれた
そして湊が戻ってきた

湊「3年2組千菜、奏叶そして俺♪3年も無事一緒だな♪」

その言葉を聞いた時凄く安心して嬉しかった


奏叶「だから言ったでしょ?」

得意気に笑う奏叶
もしかして知ってたのかな…

湊「お前初めから知ってたのか」

奏叶「いや?知らないってそんなの」

湊「本当に勘かよ…適当な奴」

奏叶「いいだろ別に!一緒だったんだからさ!
それより早く教室行こう。始業式始まるだろ」

私は玄関に向かう2人に声を掛けた

千菜「奏叶、湊…えと…よろしくね」

湊「おう」

奏叶「こちらこそ」

春の陽気に照らされる2人の笑顔
これからはきっと違う未来が待っているんだと思っていた

――…だからまさかそんな事になるなんて思ってなかったの
大丈夫って言ったから…


―――ダダタッバタン!

湊「千菜ぁ!!」

…誰がそんな未来を知っていただろうか

―…ドサッ…
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