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番外編
魔女はある時突然に……⑧
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その日のうちにザビ村を後にし、馬を駆け男爵邸に戻ってきた。
「もう少し留まって」というファリーナの言葉に後ろ髪を引かれはしたけど、どうしても早めにやらなければいけないことがあったからだ。
あたしはカーズに、より強力な毒物を作ると約束した。
だけど、それをあの男に渡すつもりは毛頭ない。
何の罪もない村人に、平然と毒を盛るような奴に絶対に渡してはいけないと思っていた。
使うべきは。
そう、カーズ・レイン本人にだ。
あの男を野放しにしておけば、きっと同じことをやる。
そして、今度は確実に誰かが死ぬ。
何の力もなく、薬草の知識しか取り柄のないあたしが、領民の為に出来ることはもうそれしかないのだ。
幸いカーズはあたしのことをこれっぽっちも疑っていない。
金を産む、便利な女だと思っているはずだ。
ひよっとしたら、あたしのことも同じ人種だと考えているかもしれない。
なら、今、やるしかない。
心に固く誓うと、馬屋から自室へ戻り隠し戸の棚を開けた。
そこには薬物保管庫にも置いておけない、凶悪で強力な2つの毒草が隠してある。
一つは極薄くしたものを服用して2日間昏倒し、もう一つは匂いだけで丸1日意識を失った。
それほどのものを2つ使い、あたしは毒薬を作ることを試みた。
匂いを吸ってはいけないのでマスクは三重、目にも防護眼鏡をかけ準備を万端にし、薬研で粉砕する。
そして乳鉢で混ぜ合わせ、そこに蒸留水を加えると、無味無臭、色味はモスグリーンの液体が出来上がった。
問題はこれを、どうやってカーズに飲ませるか……。
普段なんの交流もしていないのに、いきなり「お茶でもいかが?」はどう考えても怪しすぎる。
お菓子か料理に混ぜるか……とも考えたけど、あたしの薬物知識以外の才能はクソみたいなもので、玉子一つ焼けやしない。
それに間違って他の人が口にする可能性だってあるかも……あっ、そうだ。
何も料理に入れる必要なんてない。
あたしの得意なこと……薬にすればいいんだ。
精力絶倫になる滋養強壮剤とでも言えばカーズはきっと飛び付くはず。
何人になったかはもう数えてないけど、かなりの数の妾を相手にしてるからね。
いかにも美味しくなさそうなモスグリーンの液体の半分を、装飾の美しい小瓶に移ししっかり封をして元の戸棚に戻す。
カーズに渡す方の毒は色がわからないように緑の小瓶に移した。
飲むのを躊躇されては困るからだ。
一気にゴクッと流し込んで、すっぱりさっぱり、この世を去ってもらうためにね!
あたしは準備を整え終わると、急いでカーズの元に向かった。
「もう少し留まって」というファリーナの言葉に後ろ髪を引かれはしたけど、どうしても早めにやらなければいけないことがあったからだ。
あたしはカーズに、より強力な毒物を作ると約束した。
だけど、それをあの男に渡すつもりは毛頭ない。
何の罪もない村人に、平然と毒を盛るような奴に絶対に渡してはいけないと思っていた。
使うべきは。
そう、カーズ・レイン本人にだ。
あの男を野放しにしておけば、きっと同じことをやる。
そして、今度は確実に誰かが死ぬ。
何の力もなく、薬草の知識しか取り柄のないあたしが、領民の為に出来ることはもうそれしかないのだ。
幸いカーズはあたしのことをこれっぽっちも疑っていない。
金を産む、便利な女だと思っているはずだ。
ひよっとしたら、あたしのことも同じ人種だと考えているかもしれない。
なら、今、やるしかない。
心に固く誓うと、馬屋から自室へ戻り隠し戸の棚を開けた。
そこには薬物保管庫にも置いておけない、凶悪で強力な2つの毒草が隠してある。
一つは極薄くしたものを服用して2日間昏倒し、もう一つは匂いだけで丸1日意識を失った。
それほどのものを2つ使い、あたしは毒薬を作ることを試みた。
匂いを吸ってはいけないのでマスクは三重、目にも防護眼鏡をかけ準備を万端にし、薬研で粉砕する。
そして乳鉢で混ぜ合わせ、そこに蒸留水を加えると、無味無臭、色味はモスグリーンの液体が出来上がった。
問題はこれを、どうやってカーズに飲ませるか……。
普段なんの交流もしていないのに、いきなり「お茶でもいかが?」はどう考えても怪しすぎる。
お菓子か料理に混ぜるか……とも考えたけど、あたしの薬物知識以外の才能はクソみたいなもので、玉子一つ焼けやしない。
それに間違って他の人が口にする可能性だってあるかも……あっ、そうだ。
何も料理に入れる必要なんてない。
あたしの得意なこと……薬にすればいいんだ。
精力絶倫になる滋養強壮剤とでも言えばカーズはきっと飛び付くはず。
何人になったかはもう数えてないけど、かなりの数の妾を相手にしてるからね。
いかにも美味しくなさそうなモスグリーンの液体の半分を、装飾の美しい小瓶に移ししっかり封をして元の戸棚に戻す。
カーズに渡す方の毒は色がわからないように緑の小瓶に移した。
飲むのを躊躇されては困るからだ。
一気にゴクッと流し込んで、すっぱりさっぱり、この世を去ってもらうためにね!
あたしは準備を整え終わると、急いでカーズの元に向かった。
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