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番外編
魔女はある時突然に……⑤
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急いで馬を駆り、男爵邸に戻ると、自室への階段をかけ上がった。
野山を歩き回って薬草を探していたから、脚力には絶対の自信がある!
あたしは息も切らさずに自室に飛び込んだ。
「ファリーナっ!!」
どぉん!といきなり開いた扉に、驚いたファリーナは座っていた椅子から転げ落ちた。
「はっ、はいっ!?」
腰をついたままのファリーナを一度立たせ、薬草を採集する時に使う大きな背負い籠の蓋を開ける。
そして、必要だと思われる器具と薬の類いをぶち込みながら言った。
「今からザビ村に行きます!」
「せ、聖女様!?それでは、お助けに!?あ、ありがとうございますっ!」
「道案内、頼むね!」
背負い籠を肩に掛けファリーナを見ると、彼女は「お任せ下さい!」と強い口調で頷いた。
あたしとファリーナは馬を駆け、ザビ村を目指した。
籠に入れた薬が、本当に効くかと言えば、それはわからない。
でも、カーズが村人に使ったとされる毒は小屋から消えた四種類。
これを全て混ぜ、水か食料に入れて使用したのならまだ手の施しようがあるかもしれない。
この四種類の特効薬は、密かに自室で保管していた。
あとは、毒が変化を起こしてないように祈るばかりだ。
駆けること一刻強。
ザビ村の入り口に辿り着いたのは、夕暮れだった。
どことなく物悲しく、活気がないのは病のせいなのだと思う。
ファリーナの案内で、まず彼女の自宅へといくことにしたけど、途中、見事に誰にもすれ違うことがなかった。
一家の働き手が寝込んでいるのだから無理もない。
皆看病で忙しいのか……家の中からも声などは聞こえなかった。
やがて、村の奥の小さい家に着くと、ファリーナが馬から滑り降り戸口へと走りよった。
「あなたっ!!」
勢いよく扉を開けるファリーナに続いて私も馬を降り中を覗き込んだ。
そこには、死んだように眠る男が横たわっている。
「ファリーナ!待ってたんだよ!」
ファリーナの旦那の隣で、看病していた女性が疲れた顔でこちらを見た。
「マリおばさん!!ラナスは……」
「大丈夫!大丈夫だよ!まだねむったままだ……あ、こちらはひょっとして……?」
マリと呼ばれた女性があたしを見た。
「そうよ!聖女様!来てくださったのよ!!」
だから、聖女じゃないってばー!
訂正したいけど、今はその時間も惜しい。
「おお……感謝致します!どうか、村を……皆を……どうか……」
マリおばさんは最初に見たファリーナと同じ様に跪き祈る。
「手は尽くします……できればいろいろお手伝いもお願いします」
そういうと、早速籠を下ろし器具と薬草、調合した薬を取り出し並べる。
きっと、今は四種類の毒が上手くバランスをとって拮抗している状態だ。
見たところ症状も進んでない。
だけど、何かの切っ掛けで、バランスが崩れれば、症状は一気に悪い方へと進んでしまう。
それは絶対回避しなければ。
あたしは四種類に対抗する特効薬を取り出し、天秤を使って同じ分量を計り小瓶に詰めた。
そこに、一度沸騰させ冷やした水を少量入れ良く振る。
それを、ファリーナに渡し、少しずつ様子を見ながら与えるように指示をした。
時刻は夜半を過ぎた。
あたしとマリおばさんが少しだけうとうとし始めた頃、突然、ファリーナが小さく叫んだ。
「ラナスっ!?」
その声にあたしの頭は完全に覚醒した。
野山を歩き回って薬草を探していたから、脚力には絶対の自信がある!
あたしは息も切らさずに自室に飛び込んだ。
「ファリーナっ!!」
どぉん!といきなり開いた扉に、驚いたファリーナは座っていた椅子から転げ落ちた。
「はっ、はいっ!?」
腰をついたままのファリーナを一度立たせ、薬草を採集する時に使う大きな背負い籠の蓋を開ける。
そして、必要だと思われる器具と薬の類いをぶち込みながら言った。
「今からザビ村に行きます!」
「せ、聖女様!?それでは、お助けに!?あ、ありがとうございますっ!」
「道案内、頼むね!」
背負い籠を肩に掛けファリーナを見ると、彼女は「お任せ下さい!」と強い口調で頷いた。
あたしとファリーナは馬を駆け、ザビ村を目指した。
籠に入れた薬が、本当に効くかと言えば、それはわからない。
でも、カーズが村人に使ったとされる毒は小屋から消えた四種類。
これを全て混ぜ、水か食料に入れて使用したのならまだ手の施しようがあるかもしれない。
この四種類の特効薬は、密かに自室で保管していた。
あとは、毒が変化を起こしてないように祈るばかりだ。
駆けること一刻強。
ザビ村の入り口に辿り着いたのは、夕暮れだった。
どことなく物悲しく、活気がないのは病のせいなのだと思う。
ファリーナの案内で、まず彼女の自宅へといくことにしたけど、途中、見事に誰にもすれ違うことがなかった。
一家の働き手が寝込んでいるのだから無理もない。
皆看病で忙しいのか……家の中からも声などは聞こえなかった。
やがて、村の奥の小さい家に着くと、ファリーナが馬から滑り降り戸口へと走りよった。
「あなたっ!!」
勢いよく扉を開けるファリーナに続いて私も馬を降り中を覗き込んだ。
そこには、死んだように眠る男が横たわっている。
「ファリーナ!待ってたんだよ!」
ファリーナの旦那の隣で、看病していた女性が疲れた顔でこちらを見た。
「マリおばさん!!ラナスは……」
「大丈夫!大丈夫だよ!まだねむったままだ……あ、こちらはひょっとして……?」
マリと呼ばれた女性があたしを見た。
「そうよ!聖女様!来てくださったのよ!!」
だから、聖女じゃないってばー!
訂正したいけど、今はその時間も惜しい。
「おお……感謝致します!どうか、村を……皆を……どうか……」
マリおばさんは最初に見たファリーナと同じ様に跪き祈る。
「手は尽くします……できればいろいろお手伝いもお願いします」
そういうと、早速籠を下ろし器具と薬草、調合した薬を取り出し並べる。
きっと、今は四種類の毒が上手くバランスをとって拮抗している状態だ。
見たところ症状も進んでない。
だけど、何かの切っ掛けで、バランスが崩れれば、症状は一気に悪い方へと進んでしまう。
それは絶対回避しなければ。
あたしは四種類に対抗する特効薬を取り出し、天秤を使って同じ分量を計り小瓶に詰めた。
そこに、一度沸騰させ冷やした水を少量入れ良く振る。
それを、ファリーナに渡し、少しずつ様子を見ながら与えるように指示をした。
時刻は夜半を過ぎた。
あたしとマリおばさんが少しだけうとうとし始めた頃、突然、ファリーナが小さく叫んだ。
「ラナスっ!?」
その声にあたしの頭は完全に覚醒した。
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