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番外編
魔女はある時突然に……②
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ーーラシュカ国北部、レイン領。
広大なラシュカ国の最北部、数ある領地の中でも一番貧しい領地レイン。
土地は疲弊し、目立った特産品もない。
そのため他の領地との取引も極端に少ない、忘れられたような領地だった。
そこを治めるのはカーズ・レイン男爵。
酒癖が悪く、女癖も悪い。
領地から上がる少ない税金を湯水のように使い散財しまくる……どうしようもない男だった。
そして、隣接する領地、クライス領主の娘だったあたし、アリエル・クライス男爵令嬢は、幼い頃からカーズの婚約者だ。
婚約期間中も、悪評ばかりの男だったけど、それを別段嫌だとは思わなかった。
と言うのも、薬草の研究にしか興味のなかったあたしは、伴侶となる男が誰であっても同じだと考えていたからだ。
それに、レイン領は何もない所だけど、森に覆われた自然豊かな町で薬草には事欠かない。
もしかしたら、発見されてないような珍しい薬草もあるかも、と密かに心を踊らせていた。
夫、カーズが28歳、あたしが21歳の時、取り決めに従って結婚式を上げた。
その頃、既にカーズには妾が2人いたけれど、すぐに自室(研究室)に引きこもったあたしには特に関係はない。
向こうも、こちらには関心を示さず、放置してくれていたので研究はめちゃくちゃ捗った。
朝から森を散策し、珍しい草花を見つけては書物と照らし合わせる。
書物に載っていない草花は、その姿を絵に描き、自らの体を使って薬効を調べた。
毒草を食べてしまってお腹を壊したり、眩暈を起こしたり、なんてことは日常茶飯事。
時々発疹も出たりする。
それでもなんとか無事に乗り切った体の丈夫さに自分でも感心した。
その経験を生かして、あたしは薬を作ることにした。
まずは痛み止めの薬から始め、続いて腹痛の薬、切り傷に効く軟膏等々。
自分が起こした症状で、どの薬草が一番効いたのかを書き留めておく。
それを繰り返して、更に薬草を掛け合わせる。
そうして出来た薬は、屋敷の使用人に広がり、領地の者に広がって瞬く間にラシュカ中で評判になった。
民間療法の延長とバカにする声もあったけど、効果を体験すれば手のひらを返したように薬の力を認め始めた。
レイン領のあたしの元には、薬を求める人々が押し寄せ、いつしか「薬草の聖女」とよばれるようになった。
だが、夫のカーズがそれを見逃すはずはない。
彼はほぼ無償で配布していた薬に、法外な値段をつけ始めたのだ。
そして、自分に賄賂を渡すものを優遇し、ずっと順番を待っていた人を後回しにしろと言ってきたりした。
レイン領の物は、カーズの物。
それがわかっているから、最初は大人しく従っていた。
だけど、貧しく薬を買えない領民がいるのに、先に裕福な者を助けるのはどうなんだろう……と常に自問自答していた。
そんなジレンマを抱えたまま、薬作りを続ける日々の中、あたしの元にある女性が訪れた。
広大なラシュカ国の最北部、数ある領地の中でも一番貧しい領地レイン。
土地は疲弊し、目立った特産品もない。
そのため他の領地との取引も極端に少ない、忘れられたような領地だった。
そこを治めるのはカーズ・レイン男爵。
酒癖が悪く、女癖も悪い。
領地から上がる少ない税金を湯水のように使い散財しまくる……どうしようもない男だった。
そして、隣接する領地、クライス領主の娘だったあたし、アリエル・クライス男爵令嬢は、幼い頃からカーズの婚約者だ。
婚約期間中も、悪評ばかりの男だったけど、それを別段嫌だとは思わなかった。
と言うのも、薬草の研究にしか興味のなかったあたしは、伴侶となる男が誰であっても同じだと考えていたからだ。
それに、レイン領は何もない所だけど、森に覆われた自然豊かな町で薬草には事欠かない。
もしかしたら、発見されてないような珍しい薬草もあるかも、と密かに心を踊らせていた。
夫、カーズが28歳、あたしが21歳の時、取り決めに従って結婚式を上げた。
その頃、既にカーズには妾が2人いたけれど、すぐに自室(研究室)に引きこもったあたしには特に関係はない。
向こうも、こちらには関心を示さず、放置してくれていたので研究はめちゃくちゃ捗った。
朝から森を散策し、珍しい草花を見つけては書物と照らし合わせる。
書物に載っていない草花は、その姿を絵に描き、自らの体を使って薬効を調べた。
毒草を食べてしまってお腹を壊したり、眩暈を起こしたり、なんてことは日常茶飯事。
時々発疹も出たりする。
それでもなんとか無事に乗り切った体の丈夫さに自分でも感心した。
その経験を生かして、あたしは薬を作ることにした。
まずは痛み止めの薬から始め、続いて腹痛の薬、切り傷に効く軟膏等々。
自分が起こした症状で、どの薬草が一番効いたのかを書き留めておく。
それを繰り返して、更に薬草を掛け合わせる。
そうして出来た薬は、屋敷の使用人に広がり、領地の者に広がって瞬く間にラシュカ中で評判になった。
民間療法の延長とバカにする声もあったけど、効果を体験すれば手のひらを返したように薬の力を認め始めた。
レイン領のあたしの元には、薬を求める人々が押し寄せ、いつしか「薬草の聖女」とよばれるようになった。
だが、夫のカーズがそれを見逃すはずはない。
彼はほぼ無償で配布していた薬に、法外な値段をつけ始めたのだ。
そして、自分に賄賂を渡すものを優遇し、ずっと順番を待っていた人を後回しにしろと言ってきたりした。
レイン領の物は、カーズの物。
それがわかっているから、最初は大人しく従っていた。
だけど、貧しく薬を買えない領民がいるのに、先に裕福な者を助けるのはどうなんだろう……と常に自問自答していた。
そんなジレンマを抱えたまま、薬作りを続ける日々の中、あたしの元にある女性が訪れた。
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