助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

文字の大きさ
上 下
156 / 169
王都……の、その後

156.何も変わらないわよ?

しおりを挟む
彼らの主張は私にはさっぱり理解出来なかった。
どう考えても、生きてる方がいいに決まってるじゃない?
でも、騎士団誰の顔を見ても、その表情は沈んでいた。

「死人でいたいの?」

私はグルリと騎士団を見回し、最後にディランを見た。

「少し違う。シルベーヌ様の特別な騎士団でいたいんだ」

そう言って跪き、私の手をとるディランの後ろで、騎士団死人組も跪いた。
それは全員の総意である、という意思表示のようだった。
私の特別な騎士団?
何を言ってるんだか。
不安そうな彼らに私は言った。

「何も変わらないわよ?」

「変わらない?って……」

ディランは首を傾げた。

「だって、皆ずっと私の特別だったじゃない?何が変わるって言うの?死人じゃなくなったって変わらないわ」

「生き返っても、お側においてもらえますか!?」

ヒューゴが叫んだ。
それを皮切りに、次々とみんなが続いた。

「シルベーヌ様の庭を完成させたいです!」

「シルベーヌ様の館を仕上げたい!」

「シルベーヌ様の彫像を掘るのが夢です」

「もっともっと、シルベーヌ様のドレスを仕立てたいわ!可愛いの、いっぱいね!」

ロビー、スレイ、アッシュ、ウィレム4人の笑顔が私の目に飛び込んできた。

「私はどちらにしろ決まっている。シルベーヌ様の専属料理人だ、死んでても生きていても」

クレバードは背筋をスッと伸ばして誇り高く微笑んだ。

「もちろんよ!側にいて!ずっとよ!」

跪いた騎士団にそう言って、私は間近で跪く男を見下ろした。
他の騎士団が笑顔に戻っているのに、彼だけはまだ不安そうにこちらを見上げている。

「ディラン……死人だから特別なんじゃなくて、貴方だから特別なのよ?」

彼はまた首を傾げ、私の言葉を理解しようと努めている。
抽象的だったかしら?
もっと具体的に言わないとダメなのかしらね。

「つまり、私はディランがとても好きで貴方と生きて行きたいってこと。一緒に美味しいものを食べて、同じ時を刻み、夜の闇に眠り、朝の光に目覚める。そして、家族を作って面白おかしく過ごしたいって………」

「シルベーヌ様!!」

言い終わる前に、感極まったディランに息が出来ない程抱き締められた。
何度も言うけど、これで最後にしたいわ!
力強すぎっ!死ぬ!私が死ぬ!

「ぐえぇぇー………」

瀕死のヒキガエルのような声に、ディランは思わず腕の力を弛め、ホッとした私を見て愛しそうに微笑んだ。

「ありがとう。生き返るのが楽しみになってきたよ。うん……一緒に美味しいものを食べて、眠って起きて……家族を作る……そうだ!子供はたくさん作ろうな!」

「ディラン!ちょっと、そんな大声で……」

「大声で叫びたい気分なんだよ!君は最高だって!俺のシルベーヌ様は世界一だってな!」

ディランはその青い瞳を子供のようにキラキラさせながら、フワリと私を抱き締めた。
周りの目を気にしながらその腕の中に収まり、かろうじて動く顔だけ上げてディランを見ると、逆光の朝日のせいかとても神々しく見えた。
変態染みた性格のせいでよく忘れるけど、彼はとても美しくて格好いい。
それを意識した途端、私の顔はカーッと熱くなり、周りの景色は頭から消えた。

「ディランだって、最高よ?私の世界一よ?」

うっ!こんな歯の浮くような言葉をこの私が言うことになろうとは……。
でも、仕方ないわよね。
本当のことだし、ディランは素敵なんだもん。

歯の浮くような愛の言葉は、ディランのハートを射抜き、感激を言葉に出来ないことを悟るとその気持ちを行動で示した。
大きな両手が私の後頭部を捕らえ、背の高いディランの顔がグッと近付いてくる。
それをぼーっと見上げながら自然に目を閉じると、その後、唇に柔らかく冷たいものが触れた。
躊躇うように一回。
それから、確かめるように何回も。
私……夢の中にいるのかしら?
心地よくて、このままずっとこうしていられたらと思うほどの幸福感が体中を駆け巡る。
やがて唇が離れ目を開けると、目映い笑顔のディランが少し恥ずかしそうに見下ろしていた。
あ……私、今、人生初めての口付けを……?
…………………。
……ん?……何か忘れて……げ!皆がいるのをすっかり忘れてたわ!
夢見心地から一転、現実に引き戻された私は、周りからの生ぬるーい視線を体中に浴びた。
記念すべき人生初の口付けは、刺激的でロマンチックだったけど、まさか大勢の前で披露することになるなんて思わなかった。
恥ずかしさのあまり見事な彫像と化した私は、ひたすら目だけを泳がせてご機嫌な男を見上げている。
ディランはニコニコしながら、私の髪を撫でたり、ほっぺたをつついてみたりと無邪気なもの。
……その前で激しく背中に汗をかく私の気持ちなんて、どうせわからないんでしょうね!!












しおりを挟む
感想 142

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

【完結】傷跡に咲く薔薇の令嬢は、辺境伯の優しい手に救われる。

朝日みらい
恋愛
セリーヌ・アルヴィスは完璧な貴婦人として社交界で輝いていたが、ある晩、馬車で帰宅途中に盗賊に襲われ、顔に深い傷を負う。 傷が癒えた後、婚約者アルトゥールに再会するも、彼は彼女の外見の変化を理由に婚約を破棄する。 家族も彼女を冷遇し、かつての華やかな生活は一転し、孤独と疎外感に包まれる。 最終的に、家族に決められた新たな婚約相手は、社交界で「醜い」と噂されるラウル・ヴァレールだった―――。

身分違いの恋に燃えていると婚約破棄したではありませんか。没落したから助けて欲しいなんて言わないでください。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるセリティアは、ある日婚約者である侯爵令息のランドラから婚約破棄を告げられた。 なんでも彼は、とある平民の農家の女性に恋をしているそうなのだ。 身分違いの恋に燃えているという彼に呆れながら、それが危険なことであると説明したセリティアだったが、ランドラにはそれを聞き入れてもらえず、結局婚約は破棄されることになった。 セリティアの新しい婚約は、意外な程に早く決まった。 その相手は、公爵令息であるバルギードという男だった。多少気難しい性格ではあるが、真面目で実直な彼との婚約はセリティアにとって幸福なものであり、彼女は穏やかな生活を送っていた。 そんな彼女の前に、ランドラが再び現れた。 侯爵家を継いだ彼だったが、平民と結婚したことによって、多くの敵を作り出してしまい、その結果没落してしまったそうなのだ。 ランドラは、セリティアに助けて欲しいと懇願した。しかし、散々と忠告したというのにそんなことになった彼を助ける義理は彼女にはなかった。こうしてセリティアは、ランドラの頼みを断るのだった。

地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

子爵令嬢は高貴な大型犬に護られる

颯巳遊
恋愛
子爵令嬢のシルヴィアはトラウマを抱えながらも必死に生きている。それに寄り添う大型犬のようなカインに身も心も護られています。 自己完結で突っ走る令嬢とそれを見守りながら助けていく大型犬の恋愛物語

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

出来レースだった王太子妃選に落選した公爵令嬢 役立たずと言われ家を飛び出しました でもあれ? 意外に外の世界は快適です

流空サキ
恋愛
王太子妃に選ばれるのは公爵令嬢であるエステルのはずだった。結果のわかっている出来レースの王太子妃選。けれど結果はまさかの敗北。 父からは勘当され、エステルは家を飛び出した。頼ったのは屋敷を出入りする商人のクレト・ロエラだった。 無一文のエステルはクレトの勧めるままに彼の邸で暮らし始める。それまでほとんど外に出たことのなかったエステルが初めて目にする外の世界。クレトのもとで仕事をしながら過ごすうち、恩人だった彼のことが次第に気になりはじめて……。 純真な公爵令嬢と、ある秘密を持つ商人との恋愛譚。

処理中です...