助けた騎士団になつかれました。

藤 実花

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エピローグ

157.騎士団とシルベーヌと新しい王国①

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遷都をしたことにより、ヴァーミリオン国は王都ヴァーミリオンを中心に大した混乱もなく纏まりつつあった。
元々のヴァーミリオンの人々は、ラシュカ王都から逃げていた貴族や商人を温かく受け入れ、大人数になった町を大きく広げることを決めた。
子爵邸と騎士団庁舎を中心に町を放射線上に伸ばし、それに合わせて城壁も移動させる。
その作業が完成するにはおそらく何年もかかるはず。
でも、これから繁栄を続けていくヴァーミリオン国は、ものすごい早さでそれをやり遂げるんだろう。

ディランは子爵邸を改装して王宮にすることに反対し、ヴァーミリオン領内に王宮は作らないことになった。
子爵邸はそのまま出張所になり、ジョセフを所長として有事の際、国王(ディラン)が指揮をとる場所になる。
ディランにとって、あの屋敷は愛するお母様そのものだから、出来るだけ手を加えず残したかったのかもしれないわ。
結果、王都に王宮がないっていう前代未聞なことになったけど、ちょうどいい作りかけの離宮があったのを思い出してそれを活用することにしたの。

******


「シルベーヌ様ーー!焼き上がりましたよ!」

クレバードが庭に新しく作った東屋で手を振る姿が見える。
私は鼻をくんくんさせながら2階自室の窓を開けた。
胸いっぱいに広がる香ばしい香り。
それを吸い込むと、クレバードに向かって了解のサインを出し勢い良く部屋を出た。

ここ、ムーンバレーの新王宮は、騎士団によって完全に作り替えられ、元の3倍の大きさになった。
スレイは王宮修繕建築師長という、変な名前の役職につき、新王宮の建築を完璧にやり遂げた。
そして、3ヶ月経った現在もその変な役職についている。
ロビーは正式に騎士団を辞め、新王宮の庭師になった。
サクリスから貰ったバナナの苗は、ロビーが植え替えをした後順調に成長し、側を通る度に私はニンマリとしている。
うふふ、あと一年もすれば、三日月ちゃん達は私のお腹の中ね。
そう思うと、自然と涎が垂れそうだった。
アッシュは近くに建てた工房で、彫刻の仕事を始め、寝る間もないほど忙しく働いている。
それも、即位式の時に披露した、ディランと私の彫像が大好評で、他国の王族や貴族からの注文が殺到しているからだとか。
フォーサイスはフレアを伴って新王宮に移り、王補佐としてディランを助けて……というか、いつもケンカしている。
ま、ケンカするほど仲がいい、ということなんでしょうね?
フレアはマーサの妹フィンと共に、私の身の回りの世話をしてくれている。
ありがたいことね。
でも、うっかりおやつを隠し持っていると、すぐに取り上げられてしまうの。
それだけはどうにかならないかしら?
ミルズとマルスはヴァーミリオン領とムーンバレーに分かれ、定期的に交代しながら情報収集に勤しんでいる。
彼らの為に騎士団親衛隊諜報部という部署を作ったそうよ。
そして、ウィレムは新王宮の離れに自身の工房を構え、世界中の珍しい反物を取り寄せては私を着せ替え人形にしている。
………はっきり言って、迷惑なんだけど、楽しそうなウィレムを見ているとそんなこと言えない。
それに、即位式の時には目が覚めるような美しいドレスをつくってくれたもの。
感謝しないとね!
そして、ヒューゴは王宮衛生室の若き主任衛生師として頑張っている。
既に何人かの弟子もいて、自慢の軟膏の作り方を教えたり、アリエルと共に毒の解明をしたりと忙しい。
そうだ、アリエルは今ナシリスの別荘に間借りしてるの。
顔が知られたヴァーミリオンでは、どうしても不快に思う人がいるから、という理由でサクリスに私が頼んだのだ。
アリエルは別荘でロビーが採ってきたいろんや薬草を研究しながら、日夜研究を続けている。
まだ、騎士団は生き返ってはいない。
だから必死で頑張ってくれているの。
時々、王都からローケンが遊びに来ているらしいけど、何の話をしてるのかしらね?
ま、どうでもいいけど。

私は勢い良く階段を降り、玄関を飛び出て東屋に辿り着いた。
どうやら一番乗りだったみたいね。
今日は新王宮にいる皆で、お外で焼きたてのお肉を食べるという特別な日だった。
皆で……とは言ったけど、食べるのはほぼ私でディラン達は食べる私を見に来る、というのが正しいわ。

クレバードは、こんがり焼いたお肉を分厚くカットして皿に載せ、黄金色に輝くソースを上から垂らしている。
それを見て、私のヨダレも垂れ……。

『コラーー!!この暴食王妃っ!下品だって言ってるじゃないデスかーー!!』

1か月前、ようやく我に返った従者は、今日も元気に私を罵倒する……。

『罵倒って……罵倒されるようなことをしてるんデスよ?ヨダレて……一国の王妃が、ヨダレて……少しは反省して下さいっ!』

「はいはい。ごめんなさいねー」

と、かるーく流しておく。
スピークルムの小言も、今の私の耳には届かないわ。
だって、目の前でお肉が呼んでるんだもん。

『あーー……もう。こんなのでいいって言うんだから……世の中わからないものデスねー』

こんなのっていうな!
だけど、そうかもしれないわね。
ディランじゃなかったら、私のことなんて誰も欲しがらなかったんじゃない?

「まだ皆揃ってませんが、冷めてしまっては美味しくないので、先に召し上がって下さい!」

クレバードは大きな皿を私の目の前に置いた。
添えられたナイフとフォークを手にし、私はお肉と一対一の勝負に挑む!
さぁ、今日は何皿おいしく食べられるかな?
パクリ!と一口、大きめに切ったお肉を放り込んだ。

「ふわぁーー!!こ!これは!と、溶ける!お肉が溶けるわー!!」

思わず頬に手を当てる。

「霜降りなので柔らかいでしょう?」

「うん!あまくてとけるぅー!」

『あまくてとけるぅーー……じゃないデスよ。はぁー幸せな人デスね。そんなに食べたら、またウィレム姉さんに叱られるのデスよ!』

「ぐっ!!」

スピークルムに痛い所をつかれ、私は喉にお肉を詰まらせた。
最近暴食が過ぎて、体のサイズが定まらない。
そのため、毎日ウィレムが巻き尺片手に頭を抱えているのだ。

「まぁまぁ、スピークルム殿。いいではないですか。あとで、王と農作業でもすれば痩せますよ。やっと地上に体が馴染んで来たみたいですからね。そろそろ安定するのではないですか?」

クレバードはそう言って豪快に笑った。

「そ、そうよね?」

『またーそんなに甘やかしてー。騎士団はシルベーヌ様をダメ人間にする気なのデスか?あ……そういや、最初からダメ人間でしたね。失礼しまし………あちっ!あちちっ!』

私はスピークルムを首からはずし、お肉を焼く鉄板に近付けた。

『ひぃーーー!あちちっ、あちっ!』

彼は体をブンブン揺らしながら、ダンスをするみたいに鉄板を避け、ごめんなさいーと大きな声で謝った。














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