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王都

149.面食いかしら?

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そして、少しの沈黙の後、母が静かに話し始めた。

「……シルベーヌちゃん。わたくしの知らない間に、随分と大人になったのねぇ……」

「お母様……?」

「旅行に出かける前は、お部屋で本を読むかモヤシを育てることしかしなかったあなたが……」

引きこもりのように言わないでくださいます?
事実だけど、もうちょっと配慮して?

「愛してるなんて、こっぱずかしいことを言うようになるなんてねぇ……」

こっぱずかしい……うっ、ヒドい。
娘が頑張って言った言葉を、こっぱずかしいって言わないの!

「可愛い子には旅をさせよ、っていうのは本当ね!あなたの成長をわたくし、とても嬉しく思うわ!!それで、さっきの新王の方……ええと、名前なんだっけ?」

どうやら私は母の悪いところを受け継いでいるみたいね。
そう、この忘れっぽいところ!

「ディラン・ヴァーミリオンです。ルヴェール様、いえ義母上様」

機を逃さずディランが言った。
こういうところはぬかりないわね!

「そうそう、そうだったわ。ちょっと顔を良く見せてもらえる?ここからだと遠くて見えにくいの…………うーん、やたらと眩しいわね、そっち昼間なの?」

ごめんなさいお母様。
それ、きっと煌めき新王のせいだから……。

「ディラン、煌めき機能を切って?」

「わかったよ」

えっ!?そうなの?切れちゃうの?
冗談で言ってみただけなのに、出来ちゃうんだ……。
一体どういう仕組みなのよ。
ディランは少し全身の力を抜き、だらりとして体の緊張を解く。
すると、どうでしょう!!
キラッキラの新王は、いかにもフツーの男前になった!
そんなバカな……。
この人知を超えたイリュージョンが、本人のやる気の問題だったなんて。
隣で驚愕の表情を浮かべている私には気付かずに、ディランはスピークラムにグッと顔を近付けた。
端から見たら、お父様の胸に顔を近づけているという気持ち悪い構図だけど、それは今考えちゃダメよね?

「あら、ありがと。これで、よく見える……まぁぁぁ!男前っ!!わたくしの知る限りで5本の指に入るわ!」

お母様、一気に上機嫌になったわね。
古今東西、男前に弱いのはどこの御婦人も同じなのかしら?
でも、自分の旦那が近くにいるのを忘れないでね。
お父様がとても微妙な顔をしているわよ?

「でも知らなかった、シルベーヌちゃんが面食いだったなんて。うふふ、大当たりじゃない?」

「あはっ、そ、そうかもしれませんねぇ?」

とは言ってみたものの、特に面食いじゃないと思うの。
たまたまディランが男前であっただけのことだし……でも、仮に彼が冥府のアケローン川に棲む地獄蟹みたいな顔をしていたとしたら?
……それはイヤだから、やっぱり面食いかもしれない……。






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