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王都

134.冥府の軍勢

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私は振り返り、王を確認した。
ディランの剣は彼の心臓をグッサリと貫いている。
その剣を引き抜くと同時に、ディランは私を抱き寄せ数歩下がった。
胸から真っ赤な血を大量に吹き出し、虚ろな目でこちらを見る王はゆっくりと膝から崩れ落ち、そのままもう動かなかった。

「シルベーヌ様!大丈夫か?ケガなどしてないか?」

「大丈夫!ケガはしてないわ……ケガは……」

問題はそれじゃなくて……王が死んだということ。
魂が冥府に行ったということ……。

「ねぇ、スピークルム………もしかして……」

私はスピークルムに尋ねた。
ピンチの時に王を包んだ白い光。
あれは……

『申し訳ないのデス……シルベーヌ様を助けなくてはと思い……つい食べてしまったのデス……』

スピークルムはシュンとしてその体を曇らせた。
あやまる必要なんてないし、落ち込む必要もない!
食あたり覚悟で助けてくれた彼の思いに、私は泣きそうになった。
いつも憎まれ口を叩いているくせに!私のことなんてどうでもいいような態度をとるくせに!
本当は一番側で心配してくれてるの、知ってるんだから……。

「ありがとう。お陰で助かった!」

『でも……軍隊が……来てしまうのデス……』

「そうね。なんとかしないとね!」

「シルベーヌ様、スピークルム殿?どうかしたのか?」

ひそひそ話をする私達をディランが不思議そうに覗き込んでいる。
これから何が起こるか知らない騎士団は、王を倒したことに喜びの歓声をあげ、サクリスとナリシス軍はフロール王女と感動的な再会を果たした。
そのなかで唯一浮かない顔をしている私にディランは尋ねた。

「何か心配事があるんだろう?言ってくれ。何であろうとも、俺が君を救うから」

「ディラン………」

彼は優しく私の頭を撫で、いつものように爽やかに微笑んだ。
その顔を見ていると、なぜか不思議とすべてが上手くいくような気がした。
冥府の軍隊が来れば、地上は失くなってしまうかもしれない。
住民もきっとただじゃすまないわ。
そんな絶望的な状況で、彼の笑顔は私に希望を見せた。

「あのね、王を殺したことで、冥府の軍勢が動き出すの……」

地上に来るとき、お父様に命じられたこと。
それをディランにすべて話した。
いつの間にか周りには騎士団が詰め、その外側で、サクリスやアリエル、王女達も聞いている。

「では、間もなく冥府の……あの軍勢が地上を滅ぼしにやってくる、ということか」

あれ?「あの軍勢」といったわよね?
もしかして、ディランは知っているの?

「ああ!スピークルム殿に聞いたことがあるんだ。刃物でも傷付かないし、死なないって……」

私の表情を読んでディランは言った。

「そうなのよ、だから……」

「なんとか戦わずに納めないとな」

「ええ」

とは言うものの、冥府の王が引き下がる姿は想像出来ない。
私をダシにして侵攻するくらいだもの。
よほど貢ぎ物の中に、欲しいものがあったのかもしれないわ。



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