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王都

140.遠くへ行こう……

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前回までのお話

私、シルベーヌ・ニグロム・アルハガウン。
実は冥府の王女なの!
ひょんなことから、地上にやって来て死んだ騎士団を助けたり、公爵令嬢を地獄に送ったり、変態な王様を退治したり、たくさんの冒険をしたわ。
そんな中、仲良くなった騎士団長、ディラン・ヴァーミリオンに、プロポーズしたら……なんと、断られてしまったの。
ねぇ、これっていったいどういうこと?
私の人生どうなっちゃうのーー!?


……なんてことを考えながら、気を紛らわせようとしたけど、恥ずかしさは一向に消えない。
ディランの腕の中で、真っ白な灰になった私は、風に乗ってさらさらと消えていく寸前だった。

「シルベーヌ……お前、今、振られたのか……」

微動だにしなかった父が漸く動きだし、腫れ物に触るように尋ねる。
この異様な雰囲気に、堪らなくなって発した言葉だろうけど、それは直接過ぎて容赦なく私の心をグッサリ抉った。
だけど、どう繕ってみても、これ……振られてる。

「…………そうらしいです……私とんだ勘違いをしていたようで……」

ディランが断るはずないって思ってたのがそもそもの間違い。
熱い告白をされたから「結婚します!」宣言も喜んで受け入れてくれる、そう思っていたんだけど……。

「勘違い……って?」

私を抱き締めたままのディランが、不思議そうに覗き込む。
お、おのれ……この期に及んで、しらばっくれおって!
可哀想な子にこれ以上追い討ちをかけるの、やめて欲しい……。

「もういいの。下ろしてくれる?私暫く自分を見つめ直す旅に出ようと思うから……」

そうよ。
遠くへいこう。
知らない町へいこう。
そして……泣こう!

「では俺も行く。どこまでもシルベーヌ様についていく」

何言ってんの、この人?
どこの世界にプロポーズ断っといて、付いてくる男がいるのよ?

「………は?なんで?私のこと、好きじゃないでしょ?」

「好きだが?」

………………………………。
うん?

「………でも、結婚はしたくない?」

「そんなこと言ったか?言ってないと思うが」

「……けど……困るって………」

ディランはああ!と、思い出したように言い、それから、申し訳無さそうにはにかんだ。

「うん、困る。そういうことは、俺が……俺が、ちゃんと言いたかったから……先に言われるのは困るって……」

…………ぶん殴っても良いでしょうか??
いや、殴る前に確認を。

「あの……困る、のは私からプロポーズしたことで、結婚そのものに、困ってはいない……と?」

「当たり前だ!俺以外がシルベーヌ様と結婚しようもんなら、そいつを倒して君を奪う。ずっと、そう決めていたからな」

「………めんどくさ……」

私はポツリと呟いた。
この切羽詰まった状況で、良くそんなことを考えられたものだわ。
アホなのか大物なのか……。
勢いでプロポーズしちゃったけど、私、もう一度良く考えた方がいいのかしら?

「では!!仕切り直して最初からだ!!」

ディランは私を下ろして横に立たせると、いつかしたみたいに側に跪いた。
そして、キラキラした笑顔で見上げて手を取り、良く通る声を響かせた。

「冥府の王女、シルベーヌ様。どうか、ラシュカの王、ディラン・ヴァーミリオンのただ一人の妃になってもらいたい!!」

「…………はぁ……はぃ……」

私は、不自然に笑って頷いた。
面倒くさいディランのせいで、私はかかなくてもいい大恥をかいただけなのでは?
なんて考えてしまってちょっと複雑よ。
でもこれで、父に対抗する策が出来た。
冥府の王、ルーマンドともあろう人が、娘相手とはいえ「嘘」をつくなんてことは許されないことだもの。


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